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曖昧と感情
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秋晴れというにはまだ早い、10月なのに残暑がシャツに張り付く。
「もしもし?あぁ、母さん。うん…うん、ごめん。いや、そうじゃかいけど…うん。いや、今忙しくて、今日も休日出勤で………….あぁ、わかった、わかった。うん、じゃあ。」
成康はハァッと息を吐いた。
「おっ?お母さん?」
ノーネクタイのシャツにチノパン姿の黒田がパソコンからこちらを見ていた。
「えぇ…まぁ…」
休日出勤とはいえと一応、ネクタイをしていた成康は、そのネクタイを緩めた。
「何だって?」
「あっ、なんか今度の連休帰って来るように言われたんです。あっついですね。」
首元にじんわり汗が流れる。
「?何でまた?」
「俺がなかなか帰らないから。今度、弟が結婚するんでその顔合わせも出来ないって。」
「おぉ!めでたいな!」
黒田は身を乗り出した。
「えぇ…」
成康はエアコンのリモコンに手を伸ばした。
「で?今日は何でいる訳?」
成康は一瞬止まって、ゆっくりと黒田に目を向けた。
「何って、明日のプレゼン用の資料作りです。黒田さんがギリギリまでしなかったせいで、まだ何にもできてないので、休日出勤になったんでしょう?」
「ふ〜〜ん。でもお前は俺の下じゃないんだから、ぶった切ってもよかったんじゃね?」
成康は唇を噛む、じっと黒田を睨んだ。
「まっ、俺は助かるけど☆」
黒田は成康の目から逃げるように再びパソコンに目を向けた。
成康はエアコンのリモコンをピッピピッピと押した。
ウーンと音を立てて、エアコンが稼動し、始めた。
「お前さ、どうしたいの?」
「えっ?」
不意に問われ、成康は振り返った。
黒田はパソコンに目を向け、キーボードを叩いた。
「このまま、自然消滅を目指してるの?」
黒田はよく見てる。誤魔化しのきかない人だ。
成康はぐっと言葉を受け止めた。
黒田は更に続けた。
「自分から好きになって、ガンガンアピールしたくせに、いざ迷いを生じたら、逃げるように自然消滅。傷付きたくないからから?」
成康は抵抗するように余裕を口元に作った。
「それの方がお互いいいでしょう?はっきり言わないほうが傷も浅いですし。」
「それははっきりした別れの理由がないからだろう?んでもってお前はやっぱりあの子が好きなんだろう?」
成康の顔が強張った。
「嫌いな事を隠すのは簡単だけど、好きなのを隠すのはそうそう出来ない。嫌いは頻繁に思う感情だが、好きは中々出会わない感情だ。その”好き”の感情を隠せないくせに偉そうに言うな。」
「……」
「んな泣きそうな目で仕事するな。なんの理由か知らないけど、今日ここにいるって決めたんなら、しっかり働け。」
成康は壁の時計を見て、息を吸って、再び、席についてパソコンのマウスに手をかけた。
「比較のグラフをくれ。」
「…はい。」
(俺は……真っ直ぐ向かい合うこともできない。。)
成康はチラリと携帯を見て、今日という日を噛み締め、呟いた。
「誕生日おめでとう、雄大くん。」
「すみません、加藤さん。送ってもらって。」
「いや、いいよ。」
成康の車の助手席には、ショートカットのよく似合う色白の宮崎が座っていた。
「お休みの日なのに君も黒田さんの下で大変だね。しかも、ずっとコピー室にいたんでしょう?」
「いえっ!どうせ休みの日なんて何もしてませから!」
隣の席で小さくなって手を振る宮崎からはいい匂いがした。
信号が赤に変わり、成康はブレーキを踏んだ。
(可愛いけど…やっぱり…)
そう思いかけて、成康は口元に手を当てた。
(まただ…!)
焦った姿を見せぬように成康は顔を背け、窓から外を見た。
日が落ちる前の日曜日は、歩道に人が溢れ、楽しそうに喋りながら歩いていた。
ふと人と人の間に自転車を押して歩く、黄色いパーカーのしょぼんとした子が見えた。
「加藤さんは黒田さんと仲いいですよね。」
「う、うん…」
「黒田さんのワガママを実行できるのって加藤さんくらいですよね?それに…」
「ご、ごめん!!」
「えっ?」
「そこのコンビニ、入ってもいいかな?」
成康は返事を待たずにウインカーを出した。
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