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前日
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「お見合い!するらしいですよ!」
突然言われて、雄大は振り向くしかなかった。
クリスマスが迫ってきて、その日もまるでベルトコンベアーからプレゼントが流れてくかのように、次から次へと包装をして、クタクタになった帰りだった。
手先は紙でカサカサになり、セーターを被る時、ささくれが痛かった。
「お見合い?」
振り向くとぎゅっと唇を閉め、複雑な顔をした上村がいた。
「はい。」
「………」
もう一度、”誰が?”と聞きそうになり、口を閉じた。
薄っすらと店内からのクリスマスソングが聞こえるのに、スタッフルームの温度は1℃も2℃も下がったような気がする。
「…そう…」
雄大はパタンとロッカーを閉めた。
「つ、椿さん?」
「あっ、今日は明日のパン買って帰らなきゃ。」
雄大はパッと顔を上げた。
「えっ?」
「うん。じゃあ、お疲れ様。」
「椿さん!?」
上村が雄大の右手首を強く掴んできた。
「何すんだよ!!」
雄大は掴んでいる上村の手首を左手でつかみ返した。
「離せよ!!!」
「離しません!!」
「くっ!!」
いくらあがいてもタッパも違う雄大では、上村を押し退ける事も出来なかった。
「何なんだよ!」
雄大はぎりっと上村を睨んだ。
「だから、加藤さんはお見合いするって…言ってましたよ!」
(お見合い…?)
雄大は急に身体がグラっとして、上村の袖にしがみついた。
頭が鈍器で叩かれたような衝撃だった。
僕と別れたから?
違う。その前から成康さんは僕を避けてた。
僕と別れる理由がそれ?
ポツン
「だ、大丈夫ですか!?」
気がつくと目から大粒の涙が床に落ちていた。
「うっ…」
雄大は唇を噛み、上村に見えないように顔を背けた。
「….痛い…」
「えっ?」
「痛いってば!!」
「あっ……」
上村が力を緩めた間に雄大は上村を思いっきり振り切った。
「雄大さん!貴方はそれでいいんですか!?」
ノブに手をかけていた雄大はピクリとして止まった。
「はぁっ…」
後ろで力一杯のため息が聞こえた。
「俺、別れたら手に入ると思ってました。」
バンっと音がして、雄大を覆うように大きな手がドアを押さえた。
「!!」
「でも違うんだなぁって、雄大さんの涙見て思いました。」
髪に上村の息がかかる。
雄大はずるっと鼻をすすって、目元をを袖で拭った。
「離れろ…」
「まだ引きずってるんですよね?」
「引きずってなんかいない!全部忘れる為に仕事も辞めるんだ!!」
ドアノブかけていた手に何故か大粒の涙が落ちていく。
「俺には雄大さんが金髪にしたのも仕事を辞めるのも、反抗期の子が、中身を変えれないからって、外見を変えただけみたいに見えますよ。」
「なっ!?」
雄大が覆っている上村を見ようと顔を上げた時、その顎を掴まれた。
「上…」
上村の顔が近づいて来て、雄大はぎゅっと目を瞑った。
柔らかい感触が唇を覆う。
「……ん…」
薄っすらと目を開けると長い睫毛の悲しい瞳の上村と目があった。
「俺…待ってます。。」
「…えっ?」
「とりあえず自分が諦めれる時が来るまで待とうかと思います。」
「…待つって?」
上村は儚げに笑い、ドアノブを回した。
ガチャっと開いた拍子に雄大は半分外へ出された。
「だから雄大さんもまだ諦めないで!多分…日にちはまだあるはずです!何とか頑張りましょう!」
「あっ…えっ…?」
「そんでもって、ちゃんと何でもいいから自分自身で答えを出して、またここで働いてください。」
「えっ?はっ?」
「この店は雄大さんがいないと回らないんだから、来年もここで働いてもらいますからね。じゃないと俺が責められる。」
「うわっっ!」
上村が雄大の背中をドンっと押した。
「辞表は俺がシュレッダーにかけておきますから!ご安心を。」
「お、おい!」
バタンっと扉は閉まってしまった。
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