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行くあてもなくただ彷徨う
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「運転手さん、あとどれくらいですか?」
「まぁ…今渋滞してるしなー、30分くらいかな?」
ピッとメーターが上がったのを見て、雄大はムムムッと唸った。
「しかし、お坊ちゃんがあんな会社に何の用なの?」
「…父に夜食を届けに。。」
タクシー運転手は「あぁ!」とわかったような、わからないような声を上げた。
雄大は力が抜けたように背もたれに倒れた。
今向かっているのは成康さんの会社、WZ会社だ。
(あとはここしか無いんだ…)
成康が女の子と入ったイタリアンレストランは、今日は結婚式で貸切だった。
雄大が潜んで成康の気持ちを聞こうとしたバーはまだ営業してなかった。バーのマスターは汗だくの雄大にハンカチをくれた。
喧嘩をしたコンビニも寄ったが、当たり前だがいなかった。
祭りのあった河川敷は冷たい風が吹いているだけ。
最後に元彼女から守ってくれたあの喫茶店は、タクシーの運転手が日曜日は休みだと言った。
(住んでるところはわからないし…).
「あとはあそこしか思いつかないよ…」
雄大は頭を下げ、両手で髪をくしゃくしゃと掻きむしった。
「大丈夫かい?」
異様な雰囲気にタクシーの運転手がバックミラー越しに見てきた。
「……成康さんのいそうな場所なんて…わからないよ。。」
雄大は掻きむしるのをやめ、呟いた。
(俺はやっぱり何も何一つ成康さんには近づけないのか?)
「電話はしてみたのかい?」
前から大きな声が、元気付けるように聞こえる。
雄大は顔を上げずに手にしていた携帯を見つめた。
「朝は出なくて….僕の携帯…充電切れで…」
(なんでこんな時に充電切れてんだよ!)
雄大は携帯をヒビが入るくらい握りしめた。
「よし!電話が無理ならあとはテレパシーだな!」
「…はい…?」
雄大は素っ頓狂な言葉につい顔を上げた。
「…テレパシー?」
「あぁ、テレパシー!ビビビッと直感で相手を探す!」
腕を振る運転手の後ろ姿を見えた。
「…僕、超能力者じゃないんで。。」
雄大はひどく疲れたように肩を落とした。
「いやいや!人間なめちゃいけないよ。」
「えっ?」
「不思議なもんでね、強く想えばその人のいる所に行けるもんなんだよ。ほら、噂をすれば出会ったりすることあるだろう?」
「あぁ….」
雄大はすっと背中を伸ばした。
「人の気持ちってのは中々読み取れない。でも自分が想う分には強くできるだろう?だからその人の考えてることを考えたりするな!そんな神経すり減らすことしないで、自分の想う事をしなさい!」
(想う……)
「ほら、着いたよ。」
「あっ、はい。」
メーターの3500円を払うと財布はすっからかんだった。
(全部タクシーで移動したからな…)
「誰を探してるか知らないけど、信じる者は救われる…らしいよ!」
最後、タクシーの運転手はコロリッと笑った。
「ですね!ありがとうございます。」
タクシーを降りると寒い風が入り込んだ。
周りはすでに真っ暗で、車のライトが眩しかった。
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