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5.好きな人とのキス-5
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これから好きな人とキスをするはずなのに、頭は祝ではなくて、壱成の事しかない。
おかしい。こんな風になる自分が分からない。
「来宮君、今日も頑張ってねー。ちゃんと上野の気持ちになってね」
「は、はい」
横屋にそう言われ、ユキジは背筋を正し返事を返した。
「やれそうか?」
「うん。なんとか頑張る……」
ユキジの隣には祝がいて、どこか変に力が入っているユキジに祝は心配した顔を向けていた。
でも、もう後戻りはできない。このオファーを断ればよかったと後悔しても意味はない。
これは最初で最後のずっと好きだった人とのキス。一つの思い出になるシーン。
のはずなのに、ユキジは祝とのキスになぜか嫌だと思う自分がいるのに気付く。
壱成の顔が離れない。でも、今は上野を演じなければならない。
無責任な事はできない。それに、NGだけは出したくはなかった。
「さ、頑張ってね二人とも」
「はい」
ユキジは深呼吸して台詞を頭の中で振り返る。ちゃんと覚えてる大丈夫。
今は祝が好きなユキジではなく、勇士の事が好きな上野。上野、上野、上野。
「なんで……どうして……?」
撮影が始まり、ユキジは上野になりきった。
台詞を間違える事もなく、順調に進んで行く。
「なんで……僕じゃダメなの……? 僕といて楽しくない? 一緒にいてつまんない?」
「上野……」
「僕、勇士にならなんでもする。ここで全裸になれって言われても、外で全裸になれって言われても、すぐするよ」
「俺はそんな趣味は持ってない……」
「それくらい好きって意味だよッ! ねぇ、僕勇士にならどんな事されてもいいんだ…だから……」
「悪い上野……。俺はお前をそんな風にしたいって思わない」
「そ…そんなに愛翔がいいの……?」
その台詞に、ユキジは涙を流した。自然と溢れた涙だった。祝の事が好きだった時に言えなかった想いが、この台詞の中に詰まっていた。
そんなに秋幸がいいの。なんで、自分じゃ駄目だったの。あの時、聞きたかった一つの質問を、上野が聞いてくれていた。
「僕の方が可愛いし、愛嬌だってある! 僕は愛翔と違って、みっ、皆にだって人気だよ?」
そこは正反対だけれど、でも、想いは同じだ。
「知ってる……」
「じゃぁなんで……? なんで愛翔の方が良いの? なんで、暗くて地味な愛翔がいいの!」
祝の背中にしがみ付いていたユキジは、勢い良く離れて祝の目の前に行き、道を塞ぐ。
そして、大声でそう問いただす。
自分よりも愛翔を選ぶ理由は何かと、答えが欲しいと、その小さな身体と大きな目で聞いていた。
「そこがいいんだよ……」
「え……?」
「地味で暗くて……でも、心がとても綺麗で優しくて、一緒にいて安心する。確かにお前はいい奴だ。けど、俺は昔から愛翔しか見えてないから、何を言われても心が揺らぐ事は無い」
祝のそのセリフに、スタッフまでもが見惚れてしまう。
それが、空気で分かった。
でも、ユキジの心には響かなかった。現実の祝は、そんな愛翔とは違う人間を選んだ。自分みたいな地味な男を選ばなかった。
それが少しだけ悔しくなった。
「そんなに愛翔がいい……?」
「うえ……んんッ!」
ユキジは祝の制服の襟を持ち、強引に下に下げてキスをした。
キスに慣れていないユキジは、必死になって慣れている風を装った。
どうかバレないで。そう、心の中で願いながら、ユキジは祝とキスをする。
「え……?」
そして、キスをしている二人を目撃してしまう、秋幸演じる愛翔。
「愛翔……」
そんな愛翔に気付き、祝がユキジの身体を力尽くで離し、距離を取る。
「ご…ごめんなさいっ……」
謝る必要は無いのに謝る愛翔。そして、走り出す。
「愛翔ッ! ちがうっ、誤解だッ!」
そんな愛翔を必死に追い掛ける勇士。
その二人を、上野はただ泣きながら見ていた。
でも、上野を演じているユキジのその涙は、上野とは違う涙で、それが正しい選択だよと祝に心の中で伝えた。
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