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「今日終わったら連絡するからな!」
合コン仲間と楽しそうに笑いあっていたのに、俺の姿を見つけたらそう叫んだ竹之内(たけのうち) 一樹(いっき)。『今日合コンの後にお前んちに泊まらせて』ってメールは三時間も前に受け取っていたから、わかったと伝えるために右手を小さく上げ、今度は『また後でな!』と手を上げて叫ぶ一樹の姿を見て苦笑した。
そんなことを大声で言っていていいのかな。
彼はこれから合コンに行って、解散したら俺のアパートに泊まるのだと友人に話している。それって女の子のお持ち帰りはしないよって公言しているようなものだと思うけど。
一月という寒空の下、合コン仲間に囲まれている賑やかな彼とは違い、俺、檜垣(ひがき) 直生(なお)は一人で歩いている。一樹は集団でいる時には俺に近付かない。俺が人との接触が苦手なことを知っているからだ。
俺は小学生の時『女の子みたいで可愛いね』と変質者に言われて手を出されたことがある。人通りの少ない道に連れ込まれて服を脱がされて肌を撫でられて。恐怖で震えていた俺を大声で人を呼んで助けてくれたのは光谷(みつたに) 譲(じょう)という幼なじみで、それ以来俺は『人の手』が苦手になってしまった。女性だろうと男性だろうと触れられたくないのだ。家族と譲以外の人に触れられるとゾクリと寒気がして全身に鳥肌が立つ。酷い場合は吐き気を生じたり熱を出したりしたこともある。必然的に人との接触は避けて顔を隠すように俯く癖がついた。譲は小学生の頃からデカい図体をしていたけれど、歳を重ねるごとに比例して体も大きくなっていった。周囲から見て俺は『ひ弱な坊ちゃん』で譲は『ひ弱な坊ちゃんのボディガード』に見えるようだが、譲はそれをそのまま実行してくれた。中学、高校共にボディガードよろしく俺の傍にいてくれていた。
けれど譲と俺は進んだ大学は違っていて、完全に一人になった大学ではそれまで以上に俺は俯いていた。そんな時に一樹に出会った。同じ講義を受けていた一樹は俺に対しても気さくで、俯く俺に幾度となく声を掛けてくれた。彼に触れられても不思議と寒気も吐き気も感じなかった。だから譲にしか許さなかった俺の隣に一樹が立つことが増えて、いつしか“顔見知り”から“友人”という立場に変わっていた。
触れられることの温かさや心強さ、一樹の笑顔に惹かれて俺は一樹に対して好きという思いを抱くようになっていた。俺にとって一樹は“好きな人”だけれど、彼にとって俺は友人の中の一人。その友人の一人が恋心を抱いていると知ったら、彼は俺との友人関係に距離を置いてしまうだろう。
だから言わない。「一樹のことが好き」ということは俺だけの秘密だ。
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