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1章-p2 ミルクが終らない
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「あら、おかえりなさい今日は少し遅かったわね」
家に着くとザムシルは主に声をかけられた。
肩またで伸びた紫色のうねる髪、白い肌と、ややタレ目だがはっきりと伸びたまつ毛、どこか凛とした雰囲気を醸し出す美しい女性。ザムシルの主であるリラレル、彼女は庭で花に水をあげていた。
「遅くなって申し訳ありません、実は街で珍しい奴にあったもので…」そう言って、ザムシルは先ほどの経緯を話しはじめた。
「…という訳で、少し出かけてきてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんよ。この間も言ったでしょう、私がここに来たのも自由に穏やかな生活をする為、あなたにも私の眷属としてだけではなく、自由に人生を歩んで欲しいのよ。だから、ゆっくりしていらっしゃい。」
少し申し訳なさそうに話すザムシルに対し、リラレルはなんでもないように返した。
「ありがとうございます。」
ああ本当にリラレル様はおやさしい。とザムシルは感動に浸りつつ買ってきたものをさっとしまい、出掛ける準備をする。
確認事項を思い出し一旦手を止め、リラレルに「お夕飯はどうしますか」と尋ねると、「小さい妖魔達とるから大丈夫よ」と返事が返ってきのてザムシルは頭を下げた。
辺りが暗くなった頃、再びあの店の前に行くとダードは壁に寄りかかり何をするでもなく待っていた。黒いズボンに、そこまで寒くないのに厚手のコートを着ている。体が細いから寒いのだろうと思った。
「待ったか?」
「いいや、大して…リラレルは何も言わなかったか」
「なんだやたら気にするな、リラレル様も鬼では無い一秒たりとも離れるななんて事は言わないさ。」
「そうなのか、俺はてっきりそれ程厳しいのかと思ってた」
「リラレル様はお優しいのだ!」
ザムシルが誇らしげに主張するとダードはふっと口元を緩めた。
そういえば、サールにいた頃はこいつの笑ったような顔なんて見たことなかった。こんな顔もするんだなと思いザムシルは少し顔を見つめていた。
「ん、なんだ?」
「いや、別に…お前はたいして笑わない生き物だと思っていたから、不思議に思っただけだ」
「お互いに色々と誤解があるようだな」
「少し飲みながら誤解を解くべきだな」
今度は顔を合わせて2人で頬の端を緩ませた。
バーに入るとほぼ満席で、なんとか空いていたカウンターの端の席に通された。建物自体はそれなりに古いものらしく、木目が掠れた壁が程よい年季を思わせる。しかし、置いてある観葉植物や壁絵、照明等は近代的な物なようで落ち着きながらも新鮮な雰囲気をかもし出す。
カウンター越しに酒のボトルを扱うマスターはまだだいぶ若く見えるが、話し方や客へのふるまい、店員の扱を見ると何十年も経験を重ねた熟練者のようだった。
席についてざっと店を見回し、上着を脱ぎながら様子をうかがっていると、マスターが「何にいたしますか?」と声をかけてきた。
「ああそうだな、それなりに度が強くて果実がはいってるのがいいんだが店主のオススメを入れてくれ。あとつまみは豆と魚介、お前は?」
ザムシルが一通り注文するとダードはすこし悩んでから、「ミルクが入ってるやつ、つまみはいらない。」とぼそっと言った。
「かしこまりました」と軽くお辞儀をするとマスターは準備のためかカウンターの奥へと姿を消した。
「もしかして普段あまり酒は飲まないのか?」
ザムシルがダードに問う。
「ああ、飲まないな。元々弱い体質らしくて、すぐに頭が痛くなる。」
「なんだ、それなら無理に付き合わせたみたいで悪かったか?」
「いや、たまには飲みたくなるからいいんだ。」と
ダードは薄く笑うと、「お前は強そうだな」と言った。
「まあな、結構強いほうだと自覚している!とはいえリラレル様はこうゆう場所で飲むのは好まないというか酒がそこまでお好きではないらしいからオレも普段は全く飲まないんだ。だが正直なところ酒は好きでな、だから実の所今日来れたのは結構嬉しいんだ!」と機嫌よく誇らしげに笑った。
酒とつまみが出てくると、ザムシルの多弁は進んだ。話の内容は主にリラレルに関する事が中心だったが、こちらに来てからの生活や前の仲間との笑い話みたいなものもあった。ダードは顔には一切出さなかったが、内心こんなに喋るやつだったのかと相当驚いていた。しかし、それは嫌なものではなく、むしろ話すのが苦手なダードにとっては心地よい時間を作り出しているように思えた。
「そういえば、本当にお前は何しにこっちに来たんだ?あの骨董品屋の女主人と縁がある様にも見えなかったし、仲間は置いてきたのか?」
「ああ、それは…」
先程まで口元をほころばせて話を聞いていたダードの顔が一気に曇るのが分かった。
ザムシルは察したように呆れ顔をつくると、
「なんだ、仲間割れか。まあそんなものだろう、本当に切れない絆を作り上げるのはなかなか難しいもんだ。」と言った。
「仲間…と言うか、俺は家族だと思ってたんだ。」
ボソリ、と独り言のような口調でダードは言った。
「ほう…」ザムシルはそれを拾うように相槌を打つ。
「お前にとって仲間ってなんだ?家族ってどんなものなんだ?」
「家族か…オレも遠い昔の幼い頃の記憶しかないが、」
ダードの真剣な質問に対し、ザムシルは少し考えるように虚空に視線を向け酒を一口飲んだ。
「仲間はあくまで同じ目標を達成するための同士であって、深すぎない付き合いがベストだな。家族は無条件で幸せや安らぎを共有させてくれる場所ではないか、たとえ表面上の関係が薄く見えても心の奥深くに染み付いた絆で繋がっているような感じだ。まあこれはあくまで自論でしかないんだが。」
ダードはそう話すザムシルの顔をぼやっと眺めていた。言っていることは理解できるがイマイチ自分に置き換えた想像が出来ず、もやもやした感情が広がる。
「繋がりが、嫌な事だったとしても?」
ダードはそう質問した。
「嫌な事…とは?」
ダードはザムシルから目をそらすと、カウンターの奥に見える酒瓶を眺める。
「いや、なんでもない、よく分からないんだ。」
「分からないって顔してるな。でもいいじゃないか、分からない奴だっている、繋がりが嫌いな奴だっているんだから。分からないなら分からないなりにお前の答えを模索し続ければいい、人付き合いなんてそんなものだ。無理に結論を出す必要は無い。」
ダードは再びザムシルの顔を見て「…そうか。」と言った。
「そうさ。第一にだ、こんな秩序があって無いような世界でそんな事くそ真面目に悩む事じゃない。人なんてものは失敗しても何でも思うように生きて、ふらっと死ねばいい。よく人生に深い意味とか追い求めて語り散らしてるやつがいるが、そうゆう奴ほど中身が空っぽで何も成っちゃいない。まだライの国は秩序があったと思うな、まああそこは独裁国家で────」
その後もザムシルは酒を進めながら色々なことを人生論やら説教とも取れるさまざまなことを、ほぼ一方的に話した。ダードはそれを聞きながら、歳を重ねるとこんなにも話が広がるのかと関心していた。
しかしやはり、その話はダードにはなんとなく心地のよい音で、ひとつあくびをした。
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