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1章-p7 その夜の真実
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「なあ、話聞いてくれるか?」
いつもと変わらない夜。
そう切り出したのはダードだった。
ダードが布団に入ろうとベッドに腰掛け、ザムシルは机に向かっていた。
「いいだろう、聞いてやる。」
ダードの表情と声色から大事な話なのだと察したザムシルは、書き物をしていた手を止めダードの方へと体の向きを変えた。
「お前は家族っていたか」
ダードは静かな声でそうザムシルに問いかけた。
「幼い頃はいた。だが戦争でみんな死んだ。ああ…弟だけはサールにいるぞ俺同様リラレル様の眷属としてな、まあ、あまり会っていないしお互い大人だしあまり関心はない。」
「俺は家族だと思っていたんだ。思いたかったんだずっと、だから離れられなかったのかもしれないし、自分をごまかしてたのかもしれない。」
「…」
ザムシルはダードの話をしばらく聞くことにした。
ダードは幼い頃盗賊団に拾われ仲間として過ごしていたが、ある日その盗賊団は街の権力者によって全員排除された。ただ1人ダードを除いては、だ。
そんなダードが命かながら助けを求めるもとめたのが今まで住んでいた武器屋だった。その武器屋の店主の老人には息子がおり、名はコル。
老人と息子はダードを文句の一つも言わず家族として迎え入れてくれた。心を失うほどショックを受けていたダードも次第に慣れ、コルとは兄弟のように仲良くなった。
「コルには悪友がいるんだ。ナズって名前の、ダーク出身の妖魔と人間のハーフで、元囚人らしい。」
その男は初めにあった頃は普通に遊ぶ程度だったが、次第にダードの事を違った目で見るようになっていた。
「その、あまり気持ちのいい話じゃないんだが…」
ダードは言葉を詰まらせ、自分の手を自分で擦りながらきつく握っていた。忌々しい記憶を谷底から無理やり引っ張り出すように、ダードは言葉を絞り出していた。
「奴が遊びに来た日は夜になると…、身体を求められるようになった。嫌だったけど、っ、コルとも一緒に言ってくるから断るのが恐かった。せっかく出来た家族が無くなるのが恐かった…。」
ダードは眉をひそめ、唇を噛んだ。
それは何年にも続いた。
普通にしていれば何のことは無い、本当に家族のように接してくれる人達だった。ご飯を食べて、話をして、たまにケンカもして、どこかに出かけて、少し悪さをして、一緒に叱られて…。
ただその裏で時々あった闇に染まる瞬間、それがダードにとって耐えがたい恐怖として積み重なっていたのだった。
「気持ち悪い、と思った。そんな環境に何となく順応していく自分も、アイツらも。嫌なのに、逃げられなくて…怖くて…」
ダードは震えた声でそう言うと、呼吸を整えるために大きく息を吸った。
「だから逃げてきたんだ、1人で。それであの日の夜、部屋にアイツが来た。」
そう絞り出すと、ダードは歯を食いしばった。
「…そうか。」
ザムシルは表情を変えることなく、真剣にその話を聞いていたが、ふと表情を和らげた。
「嫌だったろう。よく耐えてたな、だがもうお前が苦しむ必要は無いだろう。どうなるかは分からんが、まだここにいればいい。」
そうザムシルが言うと、ダードは気が緩んだせいか目元を手で押さえて泣いていた。
ザムシルは何も言わずダードに近づくと手を握った。
「で、そのナズという男は殺しても構わないのか?」
「は?」
ザムシルの問いかけに、涙が引っ込んだダードは怪訝そうな顔でザムシルを見た。
「お前を追ってきたという事は、今もお前を探している可能性が高い。つまりはお前に執着しているということだろ。万が一この場所を突き止めて来たらお前はどうするんだ。また逃げるのか。それとも殺すのか。」
ダードはここしばらくリラレルとザムシルと暮らしていて時々引っかかる発言がある。それが二人の考える命の重さの感じ方だ。サールにいた頃は相対する敵として見ていたから、非道なのは仕方ないと思っていたが、こうして仲を深めても時々出てくる命を軽んずる発言には疑問を抱くことがある。
そもそもリラレルは何百年も生きている力の強い妖魔で、ザムシルはその眷属だ。だから、普通の人間の感じるそれとは違う感覚を持っているのは仕方ないことなのだ。
「殺し、たくはない。」
「ダークの治安維持機関はこんな事じゃ動かんから役に立たんぞ。逃げ続けるのか、いつまでだ。一生か?そいつのために人生棒に振るのか。」
ザムシルのいう事は極論だが、納得せざるおえない。あの夜の様子からしておそらく話の通じる相手ではない。強制的に連れ帰られなかったものの、あの夜は警告しに来たんだ、帰って来ないなら連れ戻す、と。ならば、次に見つかった時どんな行動をとればいい、ダードは思考を巡らせて顔をしかめていた。
「決めるのはお前だ。リラレル様もお前を気に入っているようだし、ここに居る分にはいつまでいても構わない。ただ、そのときが来たらどうするか考えておけ。」
「…わかった。」
そう言うとザムシルは再び机に向かっていた書き物を始めた。
ザムシルに変に思われなかったのは良かったし、事情を話せて少し気が楽になった。しかし、ザムシルに言われたように、目を逸らし続けることはできない。
ダードは横になり布団をかぶったが、全く眠気は無く、ひたすら思考を巡らせるのだった。
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