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5章-p1 星影
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一旦旅の次なる目的地を失った3人は、何度目かの野宿をしていた。海沿いを歩いている事もあり海の幸を得ることができ、保存食もいくらか持ってきていたので幸い食料の心配も無かった。
その日野宿の準備をしていると、リラレルは突然「何か嫌な気がするわ」と呟いた。ザムシルは詳しく尋ねたが、リラレルは自分でも分からないと言ったふうに首を傾げていた。
「気のせいだわ、たぶん」そう言うとザムシルに野宿の準備を促した。
日もくれた夕方、いつものように焚き火を囲み軽い食事を済ませ、リラレルの入れた紅茶を3人ですする。リラレルはふとダードの左手に気がいった。
「ねぇ、その左手はまだ能力が残っているのかしら」
ダードはふと自分の左手を見つめた。
「どうだかな。いまいちわからないんだが、力は使えそうな気はするんだ…使いたくないけどな。」
「いつも付けてて暑苦しくないのか?」
ザムシルが口を挟んだ。
「そう言うザムだって、この間までずっと暖かそうな帽子かぶっていたじゃないの。今だってあなたの服装の方がよっぽど暑苦しいわ。」
リラレルに指摘されると、ザムシルは「おっしゃる通りですね。」と苦笑いを浮かべた。
ダードの体には邪神の力の一部が宿っている、その力をダードが自分の力として使用することが出来たのだがそれが出来るのは唯一左手を使っての事だった。ダードはその強大な力を持っていると言うことを他人に知られる事を恐れ、また自分でもその力がある事を恐ろしく感じていた。そのためダードは幼い頃からほとんど手袋を外すことは無かった。
「風呂でちらと見たが、左手が痛むことは無いのか」
「痛みはしない、形が良くないだけでな。」
ダードはそっと手袋を外した。人前では外したくないそれも、リラレルとザムシルの前でなら抵抗は無かった。
あらわになった左手は普通の人の手と何ら変わりは無かったが、ただ右手とは指の長さが違った。普通なら爪があるはずの場所は無く、第一関節から切断されたように指先がない。
「力を使う度に指先からすり減るんだ。お蔭さまでまともに使えたもんじゃない。」
ダードは右手で左手の指を撫でた。
ザムシルは興味深そうに見つめたあと、ダードの左手を取って触り始めた。
「すり減るって言うのはどうゆう仕組みなんだ。痛みや出血は?」
「指先が吹き飛ぶと同時に妖力が通って傷が修復されるらしい。」
「私だってダードの左手の攻撃はくらいたくないわ。私からみても強力だもの。」リラレルはそう言うと紅茶を1口すすった。
ザムシルはしばらくダードの手を触っていたが、ふと近くに置かれた手袋を手に取り眺め始めた。
「この手袋は何か特別な作りが?」
「いいや。特別な所と言えばコルのお手製って所くらいかな。」ダードは少し笑いながら言った。
柔らかく厚みのある布でしっかりと縫い合わせてあるそれは、指先に余分に綿が詰めてありダードの手にぴったりと合うように作られていた。
「ほう、あの鳥頭も性格は適当な割に仕事は器用なんだな。」
「コルは俺なんかよりもよっぽど器用だ。」ダードが手袋を見つめる目はとても優しかった。
「これは…」と、手袋をいじっていたザムシルが口にする。手袋の内側に何かが入っているのを見つけた。
「内側にポケットがあって、宝物が入ってるんだ。」
ダードはザムシルから手袋を受け取ると、少し恥ずかしそうに笑いながら手袋の内ポケットから小さな石を取り出した。
直径1cmもないような小さな白色の石は、よく見ると光を受けて中から反射するように輝いた。
リラレルが見せてと言うとダードはそれを差し出した。
「小さいけど、よく磨かれていて綺麗ね。宝石にするには色が地味だけど、思いがこもってるみたいで素敵だわ。」リラレルはダードの手のひらに優しく返した。
「ガキの頃にどこかの山で見つけて、ジジイに磨き方を教わって自分で研磨したんだ。」
次にザムシルがそれをつまんでのぞき込む。
「さてはお守りみたいなものだな。子供じみた感じもするが、小さい心の支えを持つのは悪いことじゃない。」
「お守りか、確かに言われるとそんな感じもするな。」
ザムシルがそれを返すとダードは再び手袋の中にしまい、そのまま左手にはめた。
「いつかこうゆう石をまた自分で探してみたいなんて思ったりするんだ。」ダードは少し恥ずかしそうに笑った。
「原石があるのは鉱山だな、この辺にあればいいが...」
「自分で宝石を探せたら素敵よね!ザムシル、鉱山探しておいてあったら教えてちょうだい、皆で行きましょう。」
リラレルはそう言って2人の顔を見た。
やがて辺りが暗闇で満ちる。
リラレルはテントの中に入り、ザムシルは小さくなった火の番をする。ダードも横になろうと思ったが、用を足してからにしようと立ち上がる。
「気をつけていけよ。」
ザムシルはこちらを見ることなくそう言った。
「ああ、そうする」とダードは返すと森の奥へと立ち入る。
少し歩いていると、明るい時に通りかかった場所を思い出した。近くに森が少し開けた所があって、そこから星を見たら綺麗だろうなと考えたのを思い出す。あまり戻るのが遅くなると心配されるだろうから、ダードは駆け足でそこへと向かった。
昼間に地面で風とともに踊ったいた小さな花たちは色を落とし、見上げた空には一面降り注ぐような星が瞬く。思った通り美しい光景が見られて満足した、ダードはそれを少しの間眺めていた。
ふいに、腕を掴まれ引っ張られた。
バランスを崩し地面を背に倒れたダードの視界を塞ぐように覆いかぶさった影は、出来れば会いたくなかったあの男だった。
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