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7章-p4 作り上げたもの
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いよいよ完成だ。
今思うと、沢山の苦難があった。予定通りに進まない作業、繰り返す失敗、体調と環境と気分に揺さぶられながらここまで来た。
申し分なく、と言ったら嘘になるかもしれないが納得のいく部分までは完成度を上げられた気がする。
そして、はやく彼に会えれば完璧なのに。
これを見せたらどんな顔をするだろうか。
驚くか、喜ぶか、それとも...
考えるのはやめにして、今日は休もう。
ダードはいつもより若干だが遅く起きた。
昨日は完成させる為に少し無理をして動いたせいか、眷属体なのに疲労を感じた。もしかしたら精神的な疲労もあったかもしれない。
重労働を一人でやるには厳しいので、基本的には小人の妖魔達に作業をやってもらった。しかし、彼らも自由気ままというか、気分屋というか、知能が低い訳では無いみたいだが、価値観の違いからか酷くマイペースで作業するものだから監督役としては理解し難い行動も多くあった。予定していた完成日よりもはるかに作業が長引いたし、不具合も多く出た。
とはいえ、自分が手に負えないことをやって貰っているのだ、いちいち叱責したり、口うるさく行動を制限するのも違う気がして強く出ることはしなかった。
そんな事に頭を悩ませていたのが体に効いたのかもしれない。あとは、単純に完成で気が抜けただけただけか。
とりあえずいつものようにリビングに顔を出す。するといい匂いが漂ってきた。朝食は何を作っているのだろう、なんだか朝食にしては珍しい匂いがした。
「おはよう、ダード。よく眠れた?」
声をかけられて視線を送ると、リラレルはソファの方にいた。つまりキッチンとは逆方向。
「おはよう、リラレル。キッチンはいいのか…」
「どうして?だって、」
リラレルがそういい終わる前に、ダードはキッチンの方へ踵を返して向かった。
リラレルがソファの方にいたのは当たり前だ。
今日はリラレルが料理長ではないから、
つまり...
「おはよう寝坊助。昨日は夜中に腹をつついても起きなかったから相当疲れてたのか?」
キッチンに立っていたのは紛れもなくザムシルだった。
そんないつもの光景がなんだかとてつもなく嬉しくて、急激に胸から湧き上がる熱を止めることが出来ずダードの目からは涙が零れていた。
ゆっくりとザムシルに近づいて、火の元に立つザムシルの背中にしがみつくように抱きつくと、濡れた顔を背中にう詰めた。
「大袈裟だな、泣くほど嬉しいか?」
ザムシルは背中でダードが何度も頷くのを感じた。
「わかったから料理中は離れられないか、動きづらくて仕方がない。」
「…」ダードは何も言わずに手をザムシル腰に回しさらに強くしがみついた。
ザムシルは振り払おうとはせず、動きづらいまま料理を仕上げだ。
「なんだかんだ割りとすぐ出てきたわよね。完成したの?」
食卓を囲むと話題はザムシルの研究についてになった。
「完成というべきか、諦めたというべきか…ええ、とりあえず納得のいくところまでは仕上がったんですよ。しかし、何をどうしても俺の脳の実力では手に負えない部分も多くてですね。圧倒的に実例が足りないんですよ。あの頃に戻ってレッテの研究室に忍び込んで引っ掻き回してやりたい!というかあの脳が欲しい!」
「つまり…どういう話だ?」
結局、ザムシルが研究室に篭っていたのは約4ヶ月間。こう話すように完璧な完成と言うよりは、妥協して完成とした様な所があるようだった。
久々に見たザムシルの顔は、あの時見た疲弊しきった顔とは違い研究室に入る前と変わらないように見えた。むしろ、今日は少し調子がいいのかよく喋っていた。
「なぁ、何を作っていたのかは俺は聞いちゃいけないのか?」ダードが聞くと、ザムシルは少し考える様子を見せた。
「人造人間体、という事だけは明かしておこう。ただし、完全な完成という訳でもなければ、すぐに使う訳でもない。時が来たら詳しい事は教えてやる。」
「あら、焦らすわね?」
ザムシルが少し焦ったように視線を送ると、リラレルはわざとらしく唇に人差し指を当てる。
「わかったわ、私からは何も言わない方がいいわね。その辺は任せるわ。」
「そうして頂けると、ありがたいです。」
ザムシルは小さく頭を垂れた。
食器の片付けを終え、布団を干していたザムシルにダード声をかけた。
「ザムシルに見てもらいたいものがあるんだ。」
そう切り出した。
「何か作業しているというのはリラレル様から聞いたが、それのことか?」
ダードが小さく頷く。
「何をしていたかまでは知らんから楽しみだな。これが終わったら早速みせてもらおうか。」
干し物を終え、身支度を整えようと自室へ移動したザムシルの後ろをダードは着いて歩いた。
「そう期待されると、自信がなくなるな。」
「お前はもっと自信を持つべきだ。」
ザムシルは掛けてあった上着を取り、袖を通した。
「ザムシルは自信過剰な所があるんじゃないか?」
「バカをいえ、オレの自信は実力に伴っている。過剰なのではなく、それだけオレは優れている。」
ダードは立ったまま壁にもたれかかってザムシルの身支度を待つ。
「ナルシスト」
「それで結構。そんなナルシストに選ばれたんだから自信をもて。」
ザムシルは支度を整えると、壁に背中を預けるダードの前に立ち体を寄せた。額を優しく付けると、ダードが少し肩を含ませた。
「キスしていい?」
ザムシルが小さく言った。
「そんな事聞くなんて珍しいな。」
「今回の事で嫌気がさされたかと思ってな。」
「そんなに俺に嫌われたくない?」
ザムシルは不本意とでも言うようにほんの少しだけ眉をひそめた。
「...そういう事になるな。」
ダードはザムシルの首元に手を回すと、引き寄せて唇を重ねた。触れるだけのキスを数回すると、舌先を触れ合わせる。ザムシルはダードの頭をを抱え込むと、深い所まで絡み合わせた。
頬を撫でるように優しく両手で包み込むと、そっと口を離した。
「寂しかったよ。」
キスのせいで高揚したのか、そう言ったダードの頬は赤らんでいた。
「そうか、すまなかったな。」
「ザムシルは?」
「残念だが、お前の事をいちいち考える余裕はなかったよ。」
「ひでえ奴...」
ダードは上目で睨んだ。
「いちいちは考えないさ。お前の事は常に思っているからな。」
そんなふうに目を細めて嬉しそうに微笑むと、ザムシルは顔を耳元に寄せてきた。耳に淡く触れた唇のくすぐったさに思わず体に力が入る。
「愛してるよ。」
ゼロ距離で放たれた囁きに、ダードは全身が一気に高ぶるのを感じた。
ザムシルはすっと、体を離すと「...さて、お前の自信作とやらをみせてもらおうじゃないか。」と言うと背を向け部屋を出ていってしまった。
囁かれた左耳に、まだ残るむず痒さを手でさすりながら、ダードは「お前が先に行くなよ…」と呟いてザムシルの後を追った。
「ほぉー、…これはいいものが出来たな!」
ザムシルはそういいながら、関心したように大きく数回頷いた。
森の中をしばらく進んだ先、木が丁寧に切られ開かれた土地には人が歩きやすいように整地され木造の小さな小屋が立っていた。その場所の中心の石で整えられた窪地の中からは、湧き出るお湯とともに大量の湯気が舞い上がっていた。
────温泉だ。
「温泉好きとは言っていたがここまでやるとはな!」
「やったのはほとんど妖魔たちだ、俺は細かいことは出来ないし指示しただけで…」
「なに、謙遜する必要は無い。」
ザムシルは横にいたダードの背中を勢いよく叩いた。叩かれた勢いが強くやや痛みを感じだが、本当に感心して褒めてくれている事をとても嬉しく感じた。
どこから手をつけたのか、どこを工夫したのか、設計で悩んだことや建設中のトラブルなど、ザムシルは自分が共にいられなかった時の出来事をよく聞きたがった。それは別に建設の過程を知りたい訳ではなく、大好きな人が何を考え、何を思い、何を悩みながら時を過ごしていたのか知りたかったからだ。自分が費やした時間と彼が待っていた時間の感じ方にはきっと大きな差がある。ザムシルはそれを分かってはいたが、何故だか少し罪悪感を持っていた。それを少しでも償いたくて、少しでも離れていた時間を埋めたくて色々な話をした。
「小屋はリラレルも入浴したいと言っていたから作ったんだ。結局は混浴なんだが、着替える場所くらいは作りたくて。」
「それは素晴らしい考えだな、よしよしお前もリラレル様本位の考え方が出来てきたか!オレは誇らしいぞ!」
「お前に似てきたのかな?」
少し首をかしげながら聞く仕草に愛おしさを覚え口にしようとした言葉が、使うにはまだ早い事に気が付きザムシルはそれを飲み込んだ。
「...そうだと嬉しいな。」
「さあて、入ってもいいんだろ?」
「別に構わない、先客も居るしな」
ダードが湯船に視線を向けると、湯気の中にいくつかの小さい影が見えた。
「じゃあオレ達も入ろうか。」
湯はやや濁っており、少し熱いと感じるくらいの温度だった。通りで湯気が多い訳だとザムシルは関心しながら湯の中の段差に腰掛けた。
「ここは浅く作ってあるけど、向こうは少し深いんだ。」
隣に腰掛けたダードが指さした方向には先客の小人の妖魔達が水面に浮かびながら漂っていた。
「あいつら作ってる途中だってお構い無しに勝手にお湯に浸かり始めるんだ、あれには困らされた。」
「風呂好き仲間という事だ、優しく扱ってやれ。」
しばらく湯に浸かり他愛のない話をしていると、ザムシルは少しだけ真面目な顔でこう切り出した。
「ダード、明後日から少し2人で出かけないか?もちろんリラレル様には許可は取ってある。」
「リラレルが許可してるなら安心していけるな、どこに行くんだ?」
ダードは何気ないふりをして返事をしたが、内心2人だけで出かけられるなんて楽しみだと思った。
「それは着いてからのお楽しみにしよう。色々頑張っていたご褒美さ。」
「お前は隠すのが好きなのか?いいよ、ザムシルと一緒に行けるならどこだってきっと楽しめるし、一緒に居られるだけで十分ご褒美だからな。」
「恥ずかしげもなく言うようになったな。」
「誰かさんに似たんだ、きっと。」
ザムシルは少し恥ずかしそうにそっぽを向くダードの肩に手を回し、顎を片手で自らの方に寄せると優しく口付けをした。
ダードはとっさに顎を引き、口元を右手でガードした。
「み、みんなに見られるだろ...」
そっと目配せすると、湯気の向こうの妖魔達が皆揃ってこちらを見ていた。
「心配するな、みんな知ってる。」
ザムシルは悪戯そうにニヤリと笑った。
「そういう問題じゃないだろ、俺が恥ずかしい。」
「何を言う、生娘じゃあるまいに。」
ザムシルはからかうようにハハっと笑うと、立ち上がり「オレは先に上がってるぞ、いい湯だからまた使わせてもらう。」といってそそくさと着替えて去っていってしまった。
ダードは気の抜けたため息を鼻からだすと、体の力を抜いて鼻下までお湯に浸かった。
温泉からでたザムシルは、早足で家へと向かうべく森を歩いていた。そして、キスのせいか熱い湯のせいか赤らんだ頬と、剥き出しの肌に浮かぶ汗、濡れた髪が絡む彼の首元を思い出していた。
早くあいつの全てが欲しいと思う度自分の理性が崩れつつあるのが分かった。欲か愛かなんて考察する必要は無いのだ、愛は欲だ。
「全く、しょうもない。」
そんな恋の仕方しかできない自分に呆れて小さい独り言を漏らす。
そして、ザムシルは眉1つ動かさずに自制心を呼び戻した。
家に着いたら、明後日からの小旅行の準備をしなくてはいけない。そう、最高の旅行にする為にも。
ザムシルは思い直すと、少し見えてきた我が家をしっかりと見つめ足を進めた。
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