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8章-p2 復讐者は忘れた頃に①
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ダードは素早く緑色の服を見つけると、早速色々な場所を見て回った。初めは緑の作業服を着ていた観光担当が女性であることに驚いたが、彼女もプロのようで知識はとても豊富だった。
この辺りで採れる鉱石、取れない鉱石、鉱石がどのように作られるのか、どういうものが良く、どういうものが悪いのか、彼女はなんでも答えてくれた。
発掘作業最前線の現場も見せてもらったが、ダードの想像と異なり鉱石がどんどん見つかるわけではなかった。ほとんどは砂と土となんでもない石ばかり、洞窟内は暗く狭く、砂だらけでこんなに薄汚れた場所からあんなに美しいものが出てくるなんてにわかには信じられなかった。
実際に洞窟内の作業に手を出すことは危険ということで禁じられたが、作業場から出された砂の中に混じっている鉱石を探す作業を少しだけやらせてもらうことが出来た。作業、と言っても作業員も暇つぶしの遊びでしかやらない事らしい。
ほとんどなんでもない砂と石だらけの山を30分程掻き回すと、普通の石の端っこが少しだけ薄紫に見えるものを発見した。一度本仕事に行っていた彼女が戻ってきたので見せると拍手をして喜んでくれた。
「大当たりじゃないですかぁ!まあこんなんじゃ金にはならないですけど、欲しければあげますよ。」
「いいのか、じゃあもらって行くよ。」
ダードが嬉しそうに言うと、彼女も嬉しそうに「お兄さん石が好きなんですねぇ」と笑ってくれた。
そんなことをしていて、ダードはいつの間にか砂だらけになっていた。そう言えばザムシルも来ないし一度最初の小屋に戻ろうかと考えた。
観光担当の彼女も本仕事に戻らなくては行けないらしくて一旦別れる事にした。
ダードは疲れたし少し休んでからザムシルを探しに行こうと思った。
発掘作業が行われている向かいは森になっている、森に近い方が涼しく作業音も気にならない為、ダードはやや森に近い場所に座り込んで休んだ。
先程見つけた価値のない石を取り出すと、しばらくそれを眺めていた。世間的に価値がなくても、ダードからしたら子供の時に見つけたあの石以来の発見だ。呆れられるかもしれないがザムシルにも自慢してやろうと考えていた。
じゃりっ、と砂をふむ音が聞こえ人の気配を感じダードは森の方を見た。
その近づいてきた足音の主を凝視していると、その人影はゆっくりと近づいてきた。森の方で仕事をしていた作業員だろうか、それともこの辺に住んでいる人だろうか、と思考を巡らすうちにその人影は姿を表した。
そこには意外な人物の姿がありダードは驚きを隠せなかった。
「久しぶりっスね、アニキ。」
鼻の頭に横一線の傷、長い前髪で右目を隠し、2箇所だけ伸ばした後ろ髪が尾のように揺れる、粗野な服装は荒さを感じさせるがダードに向けられた視線は穏やかだった。
「ライア...なんでここに...?」
ダードの目の前に現れた男は、以前の仲間ギマライアだった。ダードより幾つか年下の彼はいつもダードの事をアニキと慕い、よく懐いていた。
すぐ頭に血が上り喧嘩っ早く町で乱暴な事ばかりしていたギマライアに絡まれて、返り討ちにしてから彼はダードを慕うようになった。
仲間になってからはダードの仕事をよく手伝ってくれたし、ダードがどんなに素っ気ない態度をとっていたとしても彼からの信頼は変わらなかった。ふざけて話をしていた時、「相手がいないならオレがアニキと付き合います!」なんて言うようなこともあった。ギマライアはダードの事を誰よりも尊敬してしたっていた。
ダードは今まで暮らしていた家を何も言わずに出ていった。もちろんギマライアにも何も知らせなかった。だから自分の居場所も、姿を消した理由も何も知らないはずなのに、どうして彼がここに居るのかダードは検討もつかなかった。
「オレ、アニキのこと心配で探しに来ちゃったんス...って言ったら驚きますか?」
「もう十分驚いてるよ。でも、どうし...」
言いかけたダードの腕を掴み、ギマライアは少し強引に引っ張った。
「そう言えばさっきアニキの連れの人がアニキの事探してましたよ。」
「えっ...知って...」
「待たせちゃ悪いっスし行きましょうよ。」
「...ああ。」
色々聞きたいことはあったが、ギマライアは目も合わせずにダードの腕を引き歩き出していた。
ダードはなんだかいつもと違うギマライアの様子に不信感を感じたものの、彼を疑うことはしたくなかった。何も言わずに家を出た自分に何かしら不満や怒りを感じているだろうし、じっくり話をしたいだけかもしれない。
ダードは引かれるがまま、ギマライアに着いて森の奥へと歩いていった。
ザムシルは受付の男と話をした後、金細工の小屋で頼んでいたものを受け取りしばらく長話をしていた。その後、今夜泊まる場所を確認した、泊まる場所と言ってもこんな作業現場にホテルなんてものはなく作業員の宿舎の空き室を借りるだけだ。宿舎にはやや広い屋上があったため、どんなもんかと見回しておいたりもした。
宿舎から出るとそろそろダードを探しに行くべく、鉱山の方へと向かった。
ザムシルは外で作業していた緑色の服の作業員に声をかけ、ダードの居場所を聞いた。
「あのお兄さんですかぁ?一旦小屋に戻るっていってましたけどぉ、会いませんでしたかぁ?」
ザムシルは宿舎の方にも行っていたし行き違いになった可能性もある。観光担当の彼女の話によると、他にも観光担当がいるので違う場所の見学をしている可能性もあるのと事。
ザムシルは仕方なく他の作業場をに向かうことにした。
「急に好奇心旺盛になったガキは大変だな。」
と幸せなため息をついた。
「いや、見てないな。こっちには来てねぇと思うぞ。」
違う場所の作業員がそう言った。
ザムシルはそうか、と言うと小屋の方へと向かうことにした。少し感じた嫌な予感に眉間にしわを寄せる。
早足で歩きながら、目で探すのは止めて感覚を研ぎ澄ませた。リラレルが眷属であるザムシルを感知できるように、ザムシルも眷属同士であるダードを感知することが出来る。
しばらくして、ザムシルは足を止めた。
鉱山内にダードの気配がなかったからだ。
遠い?いや、微かには感じる。
しかし、山の方じゃない。
気配は森の方から漂っていた。
ザムシルは心臓の音が激しくなるのが分かった。
ただ散歩しているだけかもしれない、何事もなければいい。ただ、何かあったとしたら...
そう考えるだけではち切れそうな胸の痛みを、殺すように奥歯を噛み締めた。
苦い顔をしてザムシルは駆け足で森へと向かった。
遠くから見えていた限り森は密度が低く大して複雑な場所ではないと思っていたが、少し中に入ると森は一気に深くなった。自然豊かと言うよりは、無造作に荒れた森というのが相応しかった。水気がないせいかザムシル立ちの住んでいる森とは違い枯れ木や草も多く、近くに人間達の作業場もあるせいか妖魔の気配もない。
ザムシルは急ぎ足で道無き道を飛ぶようにかけると、徐々にダードの気配が近づいた。
少し足を遅め、周りを見渡す。
ふと、違う気配を感じ足を止めた。
馴染みのある気配に小さくため息をつきながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
「.....いつから来ていらしたのですか。」
少し遠くの茂みがビクリと揺れた。
「リラレル様!」
もう一度大きく声をかけられると、茂みがばっと立ち上がった。
「やだぁ〜!バレちゃ仕方ないわね。ごめんなさい、ずっとつけてたの、怒ってる?」
頭に葉っぱを付けたまま謝る主に少し困ったような顔を浮かべたが、ザムシルは再びダードの気配の方へ視線を向けた。
「怒りませんよ、薄々勘づいていましたから。それより、ダードとはぐれたんです。」
「でも近くにいそうじゃないの。微かに変な臭いもするけど。」
「臭い...」
ザムシルが辺りを見まわすと、突然何かが鋭い爪を振りかざし襲いかかってきた。
首元を的確に狙ったその手を更に正確に捉え掴んで振り払う、勢いで倒れ込んだがそれに思い切り蹴りを加えると相手も体制を崩す。その間に素早く起き上がると、相手もまたこちらを睨んでゆっくりと起き上がった。
「...てめぇは、コロス...」
獣が唸るような声で襲いかかってきた男は言った。
ザムシルは何も言わずに、怒り込めてそいつを睨んだ。
再び現れたその男、ナズの顔を見てザムシルは最悪の予感が的中した事を恨んだ。
「ダードはどこにいる」
「ハハっ、どーこだろなぁ?」
ふざけたように笑うナズにザムシルは耐えきれず殴り掛かる。その拳をナズは腕で止め、もう一方の手をしなるように弾かせザムシルの顔を狙う。一歩下がったザムシルはその手を蹴り飛ばし、そのまま回し蹴りを顔に食らわせる。倒れ込んだナズを踏みつけようと飛び乗ろうとすると、ナズは寸での所で回転して避け、ザムシルの足に爪で一撃を食らわせた。
ザムシルは妙な違和感を感じた。
それは以前対峙した時とは違うナズの感覚だ。端的に言えば強くなっている、戦い方を学び鍛えたという捉え方もできるがそれだけじゃない気がした。
「あなた、エヴィンを喰らったわね。」
後方からの凛とした声がその謎を解いた。
ナズは爪についたザムシルの血をペロリと舐めると、満足そうに笑った。
ザムシルはその違和感の正体に合点がいったものの、それによりナズがどの程度の能力を付けているのか検討もつかなかった。あの力の抜け殻のようなエヴィンを喰らったとして、大した力にはならないとは思う一方、腐っても3大妖魔の1人だ侮ることは出来ないとも思った。
ただの殴り合いだけを見ると、立ち回りや素早さが飛び抜けて強くなったようには感じられなかった。ただ、打たれ強さは格段に上がっている。そのせいか、切り返しが早いのが難点だ。
素早くナズを捻り潰してダードを助け出したいのは山々だったが、少し面倒な事になったとザムシルは思った。
「お得意のビリビリはどうしたんだよぉ?電池切れかぁ?」
「お前みたいな雑魚にほいほい出してやるもんじゃないんだよ、本来ならな。でも...」
ザムシルは右手に雷を迸らせた。
「面倒だから早々に片付けてやる。」
一層鋭くナズを睨みつけた。
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