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木蓮の季節
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聞こえたその声に、香奈子が待ってましたとばかりに走り出し
しばらくすると
「木蓮綺麗なの!見てって!」と言う彼女の声と供に、龍希が1人縁側から庭へと放り投げられた。
何か、準備でもしに行ったのだろう
はーいと返事をしながら庭の先へと目を向けた龍希が貴仁を見つけて慌てて目をそらす。
「おーい。こら。目をそらすなよ」
そう言いながら、貴仁は縁側へ近づくと、煙草をそこに置かれた灰皿へ押し当て
「まぁ、俺は退散するからあいつと遊んでやって。龍希はまだかってうるさかったんだ」
と言って、ヒラヒラと手をふってみせた。
結局自分の横を通り過ぎる時ですら目を合わせられなかった己を恨みながら龍希は、小さくともハッキリ「あ、あの、貴仁さん!」と、その声をあげた。
そして、その言葉を続ける
「…あ、あの、香奈子さんと……結婚、するの?」
その言葉に少しだけキョトンとした貴仁は、あははと珍しく大きめに笑うと
「あぁ、まだ先だけど、家の両親に挨拶に行くから、そうしたら、結婚しようと思ってるよ。」
いつの間にか傾きかけた日が
白い木蓮をオレンジに染めた
美しく静かな木蓮の庭だ
龍希は、止まりそうな心臓をえぐり出したい衝動に駆られ
制服の胸元をその手で握りしめ
そして、口を開き言った
「………」
「あいつ、おめでとうございますって言ったな、あの時」
強くなりはじめた昼の日差しに
ずっと思い出を旅していた貴仁は、
その龍希の言葉と共に現実に戻ってくる事にしたようだ
そう、思い出の中の彼女も何年も前に事故で亡くし
新しく、龍希というパートナーと前を進み出した
この、現実に。
思い出と横座りにぼんやり眺めていた木蓮から目をそらすと
「俺も大概、酷い男だな」
と小さく呟く
あの時の龍希の笑顔と、彼が続けて言った
オレも貴方が好きだよ
という告白は
未だ痛く残るのだ
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