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木蓮の季節
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「悪かったな、嫌な話させて。
でも、やっぱり聞いて良かったよ。
お前は、本当に格好いいよ。
いい男だ。」
貴仁はいつだって真っ直ぐものを言う
その笑顔が
あまりに暖かで、優しいそれだったので、
龍希は不意に泣きそうになる
自分は多分、世界一幸せな男だと、月並みな漫画の台詞のような言葉を浮かべて
今度はふふっと可笑しくなる
そんな龍希の表情の変化に気付かぬ貴仁は、庭の白木蓮を見つめて続けた
「木蓮を見ていたらさ、当時、香奈子とよくお前の事を話していたのを思い出しちまってな。」
「オレの事?香奈子さんが?」
普段からそんなに自分の事を話題にあげていたとは知らなかった龍希は、興をそそられる思いで聞き返した
「ほら、特に今頃は木蓮が散るじゃあないか。この頃になるとあいつはいつも、散ったら龍くんの誕生日だわ!ってうるさかったんだぞ。」
木蓮も散る、3月の終わり
「……!オレ?誕生日?……そっか、忘れてたよそんなの」
思ってもみない誕生日の話題に驚く龍希はそう言って笑い、まさか祝ってくれちゃうの?と少し冗談ぽく付け足した。何しろ今まで、男同士の付き合いでそんな事を気にした事もなかったからだ。
「あはは、男も女も関係ないだろ、最愛のパートナーの誕生日だ、祝わせてくれよ」
その提案に、龍希は再び
自分のパートナーは世界一いい男だと泣きそうになる
そんな感情の繰り返しはなんとも幸福だ
「……あ、あ、じゃあ大きいチョコレートケーキね!ホールで!!クリームたっぷりなヤツ!」
「はぁ?俺は、食べないぞ?クリーム多いやつは。」
「大丈夫!俺ホールごと食べるから!!ホールごと!!」
「本気かよ。お前、どんな胃袋してんだ、それ。」
笑い声が耳に心地好いのは
互いの涙を知っているからだ
手に触れられるだけで幸福なのは
離れている時間を知っているからだ
青い空に映える白い木蓮が散りかけている
それを見て、あ!と声を上げた龍希が慌てて部屋に戻り持って来たのは香奈子の写真だった
そして、言った言葉に貴仁はふふっと笑うのだ
まるであの頃の香奈子と同じように
龍希が言ったから。
「ほら!木蓮が散っちゃうから、香奈子さんに見てもらわなきゃ!」
END
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