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番外編3
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やっと、落ち着きを取り戻した頃…
一人で遊んでいる千之助様を見つけた。
「千之助様、一人ではつまらないでしょう?一緒に遊びますか?」
声を掛ける。しかし…
「ん~ん。かぁみ、おしごと、たいへんなの。せんね、だいじょうぶよ」
なんだか切なくて、
「奥様が居なくて、寂しくないですか?」
と思わず、訊いてしまった。寂しく無いわけが、ないのに…
「あのね、パパがさみしいの。ママがいなくて、さみしいんだって…だからね、せんね、おりこうに、なるの」
「みんなね、やること、いっぱいなの。だからね、せんね、ひとりでも、だいじょうぶ。
せんが、おりこうだと、ママも、うれしいんだって」
きっと誰かが言ったのだろう。こんなに小さいのに、我慢して…
そういえば、奥様が亡くなられてから、《寂しい》《ママがいい》とグズることも、我が儘をおっしゃることもなくなった。この広いお屋敷で、一人でじっと遊んで困らせる事などなかったかもしれない…
私達は、千之助様に甘えることも我が儘を言うことも、止めさせてしまったのだ。
「千之助様、甘えたい時は言ってもいいのですよ。」
もともと、物分かりが良かった千之助様だから、心を閉ざしてしまうのでは無いかと心配になった。 そんな私を見て
「かぁみ、かなしいの?かぁみ、ないちゃだめ…」
と私の隣に来て、頭を撫でてくれる。
「せんが、よしよし、してあげる。わらうと、みんな、うれしいんだって。かぁみも、わらって…」
「ッ……」
目頭が熱くなって、思わず、千之助様を抱きしめた。
「大丈夫ですよ。私は泣いていません。ありがとうございます。千之助様…」
笑顔を見せれば、千之助様も嬉しそうに笑った。
「千之助様。鏡に、して欲しい事はありませんか?」
尋ねれば、少し考えた後、
「かぁみ、あのね、おふとんはいったら、わんわんのほん、よんでくれる?」
そういえば、寝る前はいつも、奥様が本を読んであげていたな…
「はい、もちろんです」
それから、千之助様に本を読むのが、初等科に入学するまでの私の日課になったっけ。
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