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夢馳せる
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「ついてないなあ」
情けないかつ、気の抜けたような一言は誰かに届くわけでもなく自分1人だけの空間で発せられ、たちまち消えていった。
俺、曽田 俊(そだしゅん)は本州から遠く離れた所に位置する小さな離島に生まれた。
島民全員が家族のようで知らない顔はないくらいの人口と、島に一つずつの交番や、学校、最低限の公共施設など、決して栄えてはないが自然と情緒溢れる島だ。
俺の母親は俺をこの島で産んですぐ、島を出てどこかへ消えたらしい。そこへその時島に引っ越してきたある夫婦が俺の育ての親兼、俺の現在の家族だ。
仕事に追われる毎日で都会の暮らしに疲れ、旅行するつもりで島を訪れた時、捨てられたという俺を見つけ、引き取ること、そして移住することを決めたのだとか。
そこで何故他人の赤ん坊を育てる気になったのかはいまいち俺には分からないが、そこには何かしらの運命があったのかも、ということにしている。
そんなちょっぴり訳ありの俺だけど何の問題もなくすくすく育った。
島の子供たちの数は少ないので必然的にみんな仲良くなる。なかでもとりわけ幼い時から仲が良い、所謂幼馴染が守谷 啓(もりたに けい)だった。
啓もこの島で産まれ育った根っからの島っ子で、家も近い。啓の親は漁師で小さな民宿を営んでいる。幼い時はよく啓の父親の漁船にイタズラをしてこっぴどく怒られたものだ。
「またお前らか!クソガキ!」
好奇心旺盛な俺らは、朝から晩まで島中を駆け回った。飯を食うのも悪さをするのも一緒だった。啓と俊がそろうとろくな事がない、なんて言われたっけ。
『ねえねえ母ちゃん』
『あら?どうしたの?俊と啓ちゃんも』
『僕、大きくなったら啓ちゃんのお嫁さんになるんだって!!』
『そう!俊ちゃんとケッコンする!』
『ふふ、本当仲良しねえ。でもね俊、俊は男の子だからお嫁さんにはなれないのよ』
これは俺の幼い時の記憶。当時俺たちは幼馴染であり悪友であり、更にケッコンを約束する仲でもあったのだ。でもこれは幼い時だからあくまで本気じゃないしとっくに時効だ。
そんな感じで俺も啓もすくすく育った。
親友として俺たちは、初めての恋も何もかも全部、ずっと側でお互いを見てきた。
『けっ、啓ちゃんすげえ!ラブレターだ!』
小3のバレンタイン、啓が女の子に告白されたのが1番始め。そして俺もクラスの女の子(子供の数が少ないのでごく僅かだが)に想いを寄せた。これが俺らの淡い淡い初恋。
『しゅん、盆踊り大会にあの子誘うの何て言えばいいか考えてくれよー』
これが中2の時。島で恒例の夏祭りの盆踊りは好きな子を誘って行くことになっていて。勿論男たちは気になる女子を誘うか誘わないかで浮足立つ。
『啓は黙ってても女の子寄ってくるって』
『そうかなー、、』
『そうだよ!ほら自信持って行ってきな!』
『俊は?いかねえの、今日』
『ははっ!俺盆踊りへたくそだから!』
そんなふうに送り出した後、啓は相手の子と上手くいって両想いになった。啓のファーストキスはこの時。初体験はそれから何日か後。
『童貞を卒業した』
そんなメールに確か俺は
『くっそー 次は俺の番だからな!』
と返信した。
そしてまあなんとなーくで俺もいい感じになった女の子と付き合って童貞を卒業した。でも長くは続かなくてむしろあまりいい思い出はない。どんな時でも啓の事が気になって、自分はこんなに過保護だったのかと思い知らされた。でも啓の幸せは嬉しかった。そんな中学生活。
そして高校に上がった頃だ。
学校の帰りに2人で海岸に来ていた。夕陽に染まる海をただぼうっと見詰めて、啓はこう言った。
『この島にはなんにもねえよ』
この言葉の意味を深く考えるわけでもなく、そうだな、と軽く相槌を打つと啓は続けた。
『高校卒業したらさ、この島でようぜ』
『え?』
『俺と、お前と、2人でさ。』
この時から俺は高校卒業後の未来に想いを馳せるようになった。
『2人で上京して、夢を叶えよう』
そう約束した。
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