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人生最大の衝撃とは
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「はぁっ…はっくしゅっ…!!くそぉ…あの傲慢男(超短縮)のやつ…!風邪でもひいたらどうしてくれるんだ…!変えの服なんか持ってないんだぞ!ドヤ!」
俺はとりあえず川からあがり、なるべく日の当たる所を選んで、家の壁を背に座り込み、なんとか暖を取ろうとしていた。
しかしどう考えても今の気温では、良くて春といったところで、濡れた服はまだ乾きそうにもない。
「うぅぅ…てかこれからどうしよ…。母さん曰く『迷子の時はその場から動くべからず!幸運が舞い込んでくるわよ!』らしいけど、その前に風邪引きそうでやばいんだけど…!…あの傲慢男の上着は奪い取っておくべきだったか…。いや、でもあんな奴の着てた服を洗濯もしないで羽織るとか、嫌すぎる。あれだ。きっと高い香水の香りとかするんだ!これがイケメンと平凡の差だ、ありがたく羽織るがいい!とか、上着にさえも馬鹿にされそう…いや、される!そんなのを羽織るくらいならっ…!ナイス俺!よく上着を取らなかった!ブラボー!」
こういう状況において、普通はこれからのことを心配するのが当たり前なのだろうが、傲慢男の性格の悪さの方が、俺にとっては外国にinしたことより余程衝撃的だったため、話が脱線してしまった。加えてこの状況で落ち込んでいても、過ぎる時間はどうせ同じなのだから、気持ちを明るく持とうと前向きに考えたのだ。
…けっして本人の単純な性格のせいというわけではない。きっと。そう願う。
側から見れば変質者では?と疑われそうな行動だが、周りには人っ子一人いない。それをいいことに、独り言には大きすぎる声で、俺は傲慢男の文句を延々と言い連ねていく。
それはもう、周りが見えなくなるくらいには夢中になって。
なので、まさか人が近づいて来ているとは思いもしなかった。
「楽しそうなところ邪魔して悪いが、お前こんなところで何してるんだ?」
「んー?何ってそりゃあ、あの傲慢男への恨み辛みをこれでもかと、アイツがいない隙に言いまくってるに…きまって……え?」
「ほーお?なんだ痴話喧嘩か?」
俺は独り言に夢中になるあまり、途中から入ってきた声に当然のように応えながら振り返った。
するとそこには、ニヤッと笑って立っている一人の男がいた。効果音ではニヤッとつきそうな笑い方なのに嫌味を感じさせないのだから不思議だ。
「…。誰?」
驚きで思わずこぼれ落ちた。という風な言葉だった。
「ん?俺か?ほれ、この格好見てみろよ。どう見てもただの旅人だろ?」
何を言っているんだ?という風に男は腰に手をあて、おどけてみせる。
「…。どう見てもただのスポーツ万能系イケメンだよバカ!無自覚か!…あ、とっさに心の声が。」
思わず普段のノリでツッコミを入れてしまうほど、男はイケメンだった。
男の格好は旅人というより、軍人といった方がしっくりとくる服を着ており、髪は灰色で短髪。瞳も同系色で光に反射すると銀にもみえる。肌は日焼けしてるせいか少々浅黒い。歳は二十代半ば程だろうか。更に腰には2本の剣を下げている。
科学が発達したこの21世紀には、少々似合わない出で立ちだ。しかしここは外国。日本の常識でものを考えない方が良いのだろう。
「す、すぅほーとぅ?いてめーん?なんだそりゃ?どっかの国の名前か?やけに発音しずらいな」
「いや、全然違うし。てか平仮名で首かしげながらとか、そこらへんのやつがやったら「は?」ってなりそうな感じだけど、イケメンってだけでこうも違うのか…!…って、そんなことはどうでもいい…!なんで日本語!?あなたどう見ても外国人ですよね!?」
そう。堀の深いこの男の顔はどう考えても外国人の血筋のはすだ。「スポーツ」や「イケメン」の発音は怪しいが、なぜかずっと日本語で話しているのだ。
そういえば、あの傲慢男もよくよく思い出してみれば…出来れば思い出したくはないが…日本語で話していた。
言葉に困らないのは嬉しいが、一体どういうことだろうか。
「ニホ、ゴ?あー、ダメだ聞き取りずらい上に全然言えねぇわ。」
「いやいや、めっちゃ言えてるから!これでもかってくらいペラペラだから!」
「お?そうか?サンキュ!」
ああ、嬉しそうな笑顔が眩しい。
どうやら褒められたと思っているらしい。薄々感じていたがこの男、少々紅葉と似ている気がする。これ以上何か言っても堂々巡りで終わりそうな予感に、この際小さい事は気にせず行こうと脱力してしまった。
どうせ日本に戻れば関係ないのだから。
「それよりお前、その格好のままだと風邪を引くんじゃないか?」
「あ。うぅ…さむっ…!!」
突然の男の登場で忘れていたが、濡れた服がだいぶ冷たくなっており、ぶるっと鳥肌がたった。自覚すると傷口が痛むのと同じ原理だ。どうせなら乾くまで忘れていたかった…。
二の腕をさすってみるが、冷たい服の上からでは意味をなさない。これでは脱いで乾かした方がまだいいだろう。
俺は取り敢えず、着ている薄手のパーカーを脱ごうとした。
が、何故かそれに見ていた男は、慌てたように俺の腕を掴んできた。
「わっ!バカ!お前なに脱ごうとしてるんだ!危ないだろうが!」
「へ?だってこのままだと、風邪を引くかなぁと。まさか…突然発火する、とか?」
つい先程の傲慢男の発火事故(?)を目撃してる分、そんな可能性があるのではと、俺は恐る恐るきいてみる。
「アホか。発火なんかするかよ。真面目に聞け。そんな行動は襲ってくださいって言ってるようなもんなんだぞ?ここら辺は王都に比べて治安が悪いんだ、気を付けろ」
「え゛!?マジ!?確かに日本に比べれば外国は危ないイメージがあるけど、まさか上着を脱ぐくらいで、ひったくりにあうかもしれないとは…恐るべし外国…。」
男の忠告に俺はそそくさと上着を着戻す。
話を聞く限りここは首都からだいぶ離れたところらしい。
これは日本に戻るのに手こずりそうだ。
帰る方法を早めに考えていた方が良さそうだと判断した俺は、この辺りに詳しそうな男に、どうすればいいのか聞こうと口を開きかけるが、男の次の言葉でそんな考えは吹っ飛んでしまった。
「はぁ…。お前マジでふざけるなよ?いくら平凡そうで目立たないような顔してても、若くてそこそこ見れる見た目なら、男でも犯されるんだよ!分かったか?」
「は……はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それは、俺のまだ短い16年間の人生で、一番の衝撃だったかもしれない。
男はあまりのうるささに両耳を押さえ、嫌そうに顔を歪めた。うう…申し訳ない。
二次元での男同士の恋愛がメジャーになっている日本でも、現実ではまだまだ一般的にはなっていない。一部の特殊な道に進んだ女子…あるいは男子も含めるかもしれないが…にしか関係のないものだと思っていた事が、まさか我が身に関わってくることになるとは。そんなこと思ってもみなかった俺である。
聞きたい事は多々あれど、驚きで口をパクパクと金魚のように動かすことしか出来ない。
そんな俺に、男は困惑げな視線をよこしてくる。
「おい?取り敢えず一旦落ち着け。ここに部屋をとってある。そこでもいいなら話を聞いてやる。ちなみに連れが一人いるが、大人しい奴だから気にするな」
「イ…イエス…お願い…します……。」
やっと絞り出した声で返事をしてから、俺は男の指差す建物へ目を向ける。
俺が誤って窓から落ちた部屋のある建物だ。
次は絶対に落ちたりしない。と、どうでもいいことをちらほら考えながら、案内してくれる男の後をフラフラついていく。どうやらまだ衝撃が残っているようだ。
ああ……そういえば、一番大事な事を聞き忘れていた。
イケメンにーさんよ、お名前なんて言うんですか。
お互い名乗りもしないで、よく人を自分の部屋にあげれるなと、感心してしまう。
バカやらアホやらそこそこ見れる平凡やら、ボロクソ言われた気がするが、本当は優しい人物なのだろう。ちゃんと付いてきているか、時々振り返り確認してくれている。
しかし、知らない土地でこれほど心強い味方に出会えるとは。まさに不幸中の幸いである。
しばらく感動でじーっと尊敬の眼差しを向けていると、男はピタッと立ち止まり、こちらに向き直った。
「なんか知らないが、その気持ち悪い目でガン見するのやめてくれねぇか?落ち着かないんだ」
「・ ・ ・。」
前 言 撤 回。
滅びろイケメン!!平凡の敵!!!
こちらで出会った人物二人に、ことごとく貶された俺は、相手を思いやれる心を持った、マトモな人間に出会えることを、切に切に神に願った。
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