アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
俺と彼との出会いとは
-
「ふぅ…。マジでびっくりした。いきなり発火するんだもんなぁ。アンタ火傷とかしてない?」
「…。……ああ。」
「あー、良かった。…こんな美形に怪我させたとか、世の女性たちがなんて言うか……ああ、なんて恐ろしや…。…おっと、いけない心の声が。」
あれ程の炎でよく何もなかったと感心しながら、俺は安堵した。同時に少々本音が漏れてしまったが、結果良ければ全て良しだ。…微妙に違う気がするが、細かいことは無視に限る。
しかし、今まで無表情でいた男が、少しとはいえ目を見開いてこちらを凝視している表情は新鮮だ。
(そりゃそうか。いきなり自分の手から発火したんだもんな。俺だったらこんな落ち着いてられないや…。)
それでも驚きからか、男は未だに俺に握られている手を、振り払う事すらしない。
男相手にこんなことを思うのも変だが、なんと手触りのいい肌なのだろうか。ゴツゴツとはしていないが、しっかりとした男の手。その手に続く手首には、幅1㎝程の金色に輝く腕輪がされている。なにやら不思議な模様…あるいは文字のようなものが掘られており、黒一色の装いにはワンポイントとして馴染んでいる。
「って、すみません。急にこんな川の中にひっぱって来たりして。あはは…。上がりましょうか。風邪でもひくと大変ですし。」
今気づいたが、よくよく考えてみれば大の男二人で仲良く手を繋いで川遊びとか、一体誰得というんだ。
幸い周りには誰もおらず、こんな不思議な光景を目撃されたりはしていない。が、いつ誰が来るかわからないのだ、早く川から上がることが先決だろう。
男の方も元の無表情に戻っている。
そして、その無表情で手を繋いだままなのだ。
このなんとも言えない微妙な空気は、早くぶち壊すべきだろう。
「えーとぉ…あのぉ…?手を離して欲しいんですけどぉ…?なんて…。」
しかしだ。
さっさと上がってしまいたいのに、男の右手と俺の左手は繋がれたままだ。
決して強く握っているわけではないが、こちらは力を抜いているのに、あちらは握ったままなのだ。
結果、手は離れない。
何故だ。
どうしたと言うんだ、無表情美形男よ。
もしかして重度の難聴なのだろうか。
だから先程…出会ってから今この瞬間までの俺の話を、全く聞いていないのか。
逆に違うと言うならば、故意に無視しまくっているということになるが、それは酷過ぎやしないだろうか。
いやいや、そんなことはどうでも…よくないが…いい。
手を。
離してくれ。
俺がそんなことを考える間も、男は俺をじーっと、見つめてくる。もはやガン見と言うべきだろう。精神的に穴が空きそうだ。
もしかすると、平凡顔が珍しいのだろうか。
確かに毎日鏡で見ているのが、超美形な自分の顔ならば、俺の顔が珍しいと言われても納得できる。
納得は出来ても、素直に容認なんてしてやらないが。
「せめて、何か喋ってくれませんか?その無表情で無言、しかも仲良くお手繋ぎとかシュールで怖いんですけど…。ほんと…誰得なんですか……。」
もはや泣きが入る形でのお願いである。まばたき以外ピクリともしないのだ。怖すぎる。
弱音を吐きそうになっていると、やっと男が口を開いた。
「お前…。」
なんと。呼び方が変化している。
「貴様」呼びよりは蔑んだ感じが無いようで、遥かに良い。
が。
「うわっ!?」
ほんの少し気分が上昇した俺を、男は握っている手に力を込めて引き寄せた。
もちろんそんな行動を予想していなかった俺は、引き寄せられるままに男の方へとバランスを崩した。
「っ……!」
男の胸元に空いている手をつく形で、なんとか倒れずに済んだものの、顔を上向かせた先、鼻先がくっつくのではないかと思える程間近に、男の顔が差し迫っていたのだ。
突然の接近に声も出ず、ヒュッと喉が鳴る。
もはや近すぎて相手の顔がぼやける程だ。
しかし、見つめてくる強い瞳ははっきりとわかる。
「な……に……?」
絞り出せたのは、その2音のみ。
怖い。
そう思った。
俺が混乱で動けない中、男は左手を持ち上げゆっくりと俺の頬に当てて来た。
冷んやりとしている。こちらの手は水に浸かった訳でもないのに。
瞬きすら忘れたように男を見ている俺の視界の中、彼がスッと目を細めた。
何故だろう。
酷く鼓動が早い。緊張しているのか。
体験したことのない圧迫感のようなものに、ツーっとこめかみ辺りから汗が一筋ながれた。
一秒が一分にも一時間にも感じられるなんて、あるわけがないと思っていた。しかし今、自分はそう感じている。
この男は、一体なんなんだ。
酷く緊迫した空気の中、先に動き出したのは男の方だった。
頬に軽く当てられていた手が、僅かに動く。
そして。
「へ?………いっひゃっ!?!」
なんと、男は容赦のない力で俺の頬右をつねってきたのだ。
それはもう「グニャ」と音がするのではないかと言うように…!
俺の顔が変形したらどうしてくれるんだ。不細工と平凡ならば、確実に平凡の方がましだ。
「これ位で図に乗るなよ小僧。如何にお前が秘策を隠していようとも、ベリウェルの名を戴く私にとっては、赤子の首を捻るよりも簡単にお前など潰せるのだからな。」
「ひゃひひっへんひゃっ?ひひひゃらひゃひゃへひょっ!ひひゃひっへ!(何言ってんだっ?いいから離せよっ!痛いって!)」
「いいな?ゆめゆめ忘れるな。」
「ひゃひゃひゃ、ひょへひょひゃひゃひひょひへっへ!(だから、俺の話を聞けって!)」
「ふん。お前のような下位天使などの話を、何故私が聞かねばならぬ。そんな事より、恐れ多くもこの私に触れて貰っていることに感謝しろ。」
「ひゃぁ?(はぁ?)」
人助けをしてここまで罵られるのは初めてだ。
しかも何気に今、この男ーーベリウェルーーは、自分のことを「この私」などと言っていた。
どんな思考回路をしているのやら。それともどこかの大富豪の箱入り息子なのだろうか。
先程までの一触触発とでも言える、あの重圧感のある空気は何処へやら。
なんとも傲慢な態度と言葉に、俺は脱力してしまった。
「ひひひゃひゃ、ひゃひゃーせっ!(いいから、離せっ!)」
火事場の馬鹿力、ともちょっと違う気がするが、少々頭に来たのもあって、俺は思いっきり、頬をつねっている手を振り払ってやった。
「っ…!」
予想だにしていなかった反撃に、ベリウェルはタッと地面を蹴って空中へ飛び上がり、川の外の道へ素早く着地した。
驚くことに、終始その動作において、全く音を立てずに。だ。
人並みはずれたその動きに、俺はポカンと口を開けていることしか出来ない。
本当に、この男は何だというんだ。
「……。気に食わん。」
川の中で一人呆気にとられていると、ベリウェルがボソリと呟いた。
しかし声が小さく聞き取れない。
「へ?…何だよ?」
当然俺は聞き返した。
相手の話していることはしっかりと集中して聞かなければならない。という母さんから教えてもらった教訓だ。
いくら相手がこんな無表情傲慢嫌味美形男だとしても、相手にしないわけにはいかない。不本意だが。
耳の横へ手を当て、聞く準備をしている俺を、ベリウェルは不機嫌とも言える瞳で暫く睨みつけ、口を開いた。
「気に食わん。お前が。」
そして、事もあろうにそんな大層なお言葉を仰りやがりました。
なんでせっかく聞き直してやったのに、2回も同じことを言いやがるかな、この無表情傲慢嫌味美形男は。
一回目が聞こえていなかったわけじゃない。しかし、聞き間違いかもしれないと、わざわざもう一度確認したのだ。向こうだって相手を思う気持ちがあれば…確実に無いだろうが…少しはマシなこと、礼でも言ってくるかと思ったのだ。思ったのだが。
期待した俺が、どうやら間違いだったようだ。
そう、敗北感に打ちひしがれていると。
「それに…。」
まだ何か言いたいことがあったのか、ベリウェルはまたポツリと言葉を零した。
「その目。…不愉快だ。」
スッと視線をそらしてそう言い残すと、ベリウェルは再度地面をタッと蹴り、今度は先程よりも遥か高くに飛び上がり、建物の屋根の上へと姿を消してしまった。
「俺の……目が、不愉快?って……。なんじゃそりゃぁぁぁ!!!」
呆然と、言われた意味を反芻して考えた俺は途端に我に返って叫び出す。
「なんだよそれっ!?アンタとほとんど変わらない色なんですけどぉ!!全身どこ見ても真っ黒のアンタより、よっぽど見応えある配色だっての!!」
ほんっとーにっ!
なんなんだあの不機嫌無表情傲慢嫌味美形男は!!
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 7