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K01 : 熱の入江 23
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「そろそろ、出ようか」
デザートのティラミスまですっかり平らげたところで、多田さんはテーブルの横に掛かってる細長いバインダーを手に取る。
「あ、ダメだよ。次は俺が出すって言ったよね」
慌てて立ち上がってその手から伝票を奪い取ろうとした俺に、多田さんは優しく宥めるような口調で言う。
「そんなわけにはいかない。楓くんは、まだ学生さんだし」
「関係ないよ。ホントにダメだってば。それ、貸して」
「今日はこっちが誘ったんだし、俺が出すよ。わかった?」
そう言いながら、立ち上がってもう身支度を始めてる。
「1人で食べて帰るのもどうかなと思ってたから、楓くんから連絡をもらえて嬉しかったんだ。だから、本当に気にしなくていいんだよ」
それは優しいけど有無を言わせない口調で、俺は結局言い含められてしまう。それでもお金を出してもらってばかりなのが申し訳ないから、念押しする。
「じゃあ、今度こそ俺がお返しするから。絶対だよ」
多田さんは微笑みながら頷いた。本当にわかってくれてるのかな。
でも、これでまた次に会う口実ができたかもと思えば、嬉しかったりする。
先に店の外で待っていると、会計を済ませた多田さんが出てきた。遠目で見てもやっぱりかっこいいな、なんて思いながら俺は早足で歩み寄っていく。
「ごちそうさまでした。すごくおいしかったし楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ、付き合ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」
俺の言葉に、にこやかにそう返して多田さんは胸元のポケットから煙草とライターを取り出した。
「ごめん、1本だけ吸っていい?」
俺が頷くのを確認してから、胸ポケットから煙草を取り出す。駐車場の脇の喫煙所で、俺は多田さんが煙草を咥えて火を点けるのをじっと見てる。
長くてきれいな指だ。ひとつひとつの仕草が様になってて、目が惹きつけられる。
「禁煙しようと思ってるんだ」
紫煙をおいしそうに燻らせながらそんなことを言うのがおかしくて、俺はつい笑ってしまう。
「無理してやめることないよ。煙草を吸ってる多田さん、かっこよくて俺は好き」
それはこっそり紛らせた本心だったんだけど、案の定軽く流されてしまう。
「吸えるところも限られてきたからね。肩身が狭くて」
冷たい風が、火照る肌にあたって気持ちいい。
いい感じに酔いが回っていて、身体は熱いのに頭の中はやけにクリアな感じだった。
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