アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
K01 : 熱の入江 31
-
待ち焦がれていた音が聴こえた。
部屋に響き渡る、静かにドアが開く音。その後に続く、真っ直ぐこちらへと向かってくる足音に、俺は耳を澄ませる。
背中の後ろでベッドがしなやかに軋んだかと思うと、同じ布団の中に多田さんが入ってくるのを感じた。
ボディソープかな。お風呂上がりの、ふんわりとしたいい匂いがする。
うっすらと目を開ければ、暗がりの中をフットライトの灯りが仄かに照らしていて、白い壁が淡いオレンジ色に浮かび上がっているのが目に入った。
「……多田さん」
背中を向けたまま恐る恐る呼び掛けると、多田さんがこっちを振り返る気配がした。
「楓くん、まだ起きてたの?」
ゆっくりと身体を反転させてみると、多田さんは少し離れたところから俺をじっと見つめてた。
俺は頷いて、少し拗ねた素振りを見せる。
「寝れるわけない。あんなキス、初めてだよ。すっかり目が覚めた」
正直にそう言えば、多田さんは少しだけ口元を緩ませる。
「別に、楓くんをからかったわけじゃないんだ。ただ」
「ただ?」
口を噤んで多田さんは俺を見下ろす。その先に続く言葉は、もう言うつもりがなさそうだった。
その瞳が本当に艶やかで、ただ見つめられてるだけなのに、また体温がどんどん上がっていく。
多田さんと一緒にいるだけで、胸がドキドキして止まらない。
この不思議な昂揚感は何なんだろう。
他のことは何も考えられなくなるぐらい、頭の中がこの人のことでいっぱいになってしまうんだ。
だから、嫌なことだって全部忘れられる。
「……多田さんと、エッチしたい。駄目?」
絡まる視線が、曖昧に揺れる。
やっとの想いで言葉を吐き出した途端、時間が止まったみたいに静かな沈黙が降りる。その重さに堪え切れなくて、俺は1人で堰を切ったように言葉を重ねていく。
「多田さんが結婚してるのは、わかってる。奥さんのことを大事にしてるんだろうなっていうのも。でも、遊びでも何でも俺はいいんだ。そんなの関係ないっていうか」
酸素が足りなくなったような息苦しさを感じて、一旦言葉を切ってからゆっくりと息を吸う。
多田さんの優しい眼差しは真っ直ぐ俺に注がれてる。
大丈夫。多田さんは、ちゃんと俺の話を聞いてくれてる。
「それに、男同士だったらノーカンだし」
「ノーカン?」
スッと眉を上げる多田さんに、俺は慌てて説明する。
「数に入んないってこと。浮気にならない」
「すごい理屈だね」
苦笑するその顔が、何だかかわいく見えたりして、俺はこの人のことが本当に好きなんだなって思う。恋の病はもう重症で、引き返すことなんてできない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
35 / 104