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K01 : 熱の入江 42
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「楓……わかる?」
耳元で囁かれたその声に肌が粟立つ。
駆け上がってくる快楽に容易く流されないよう我慢することに必死で、何かをまともに考える力なんて残ってなくて。
小さく首を横に振れば、多田さんは少しだけ身体を離して、濡れた額に唇を押しあててから俺の顔を覗き込んだ。
そのきれいな瞳には、俺の理性を根こそぎ絡め取る強い光が滲んでる。
「楓は名前を呼ぶと、締めつけるんだね。そんなに気持ちいい?」
この人に呼ばれると、身体が期待に震えてしまうんだ。
もう止まってしまいそうなほどに緩やかな律動でさえ、めちゃくちゃ気持ちよくて。
でも多分、それは俺だけじゃなくて多田さんも同じで。
理知的な雰囲気のする整った顔を、鋭い痛みを堪えるようにわずかに顰めながら、多田さんは悪戯っ子がする微笑みを見せる。
それがもう本当にセクシーで、胸がまたキュッと縮み込んだ。
「ん……、だって、好き……」
熱に浮かされながらそう口にすれば、多田さんは甘やかな眼差しをまっすぐに俺へと注いでくれる。
その瞳に吸い込まれて、身も心もドロドロに融かされて。自分を委ね切ってしまうことが、こんなにも気持ちいい。
名前を呼ばれることも。与えられるこの感覚も。俺の中に入ってる多田さんの熱も。
自分でも不思議なぐらい愛おしくて、たまらない。
多田さんのことが、大好きなんだ。
今この瞬間の全てが心地よくて。
多田さんに会うまで心の中に溜まっていたいろんなわだかまりが、全部するすると解けて、幸せな感覚でいっぱいになってる。
「楓……」
今日何度目かの名前を呼ばれた瞬間、俺の中を満たしてる熱いものが動いて、ビクリと腰が揺れてしまう。
「楓、好きだ」
ああ、夢みたいだ。
熱を孕みながら紡がれたその言葉に俺は何度も頷いて、俯いたまま汗ばむ額を寄せ合い至近距離で視線を絡ませる。
俺もだよ。多田さん。
大きな掌が頬にあてられて、その手の甲に自分の手を重ねながら唇を合わせる瞬間 ─── 指先に、硬い金属が触れた。
その冷たい感触に心臓がずくんと大きく収縮して、飛んでしまっていた理性が一瞬で呼び覚まされる。
そうだ、この人は結婚してる。
神様の前で、永遠の愛を誓い合った相手がいるんだ。
けれど、そんな戸惑いを全部呑み込んでいくかのように、多田さんの瞳は俺を捕らえてしまう。
少しの躊躇いを含みながら重ねられた唇は、罪に濡れていて。
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