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K01 : 熱の入江 45
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心地よい暖かな感覚に包まれながら目を開ければ、仄かな橙色に浮かび上がる天井が見えた。
見覚えのない、さざ波のような柄だ。
ここがどこなのかがわからなくて、頭を少しだけ起こしながら身体の向きを変えれば、隣に横たわる人の顔がぼんやりと視界に映る。
焦点を近くに合わせていけば、わずかに灯るフットライトに照らされたその顔はすごく整っていて、長い睫毛の下から琥珀色の瞳が覗いてた。
俺のことを至近距離でじっと見つめるその人の視線に、チリチリと胸が疼く。
「 ─── 目が覚めた?」
その声を聴いた瞬間、ここへ来てからのことが矢継ぎ早に頭の中を駆け巡る。
多田さんにキスをねだったこと。身体を重ねたこと。そして、意識がなくなる寸前の悲しげな眼差し。
そこから先の記憶が途切れてることに気づいて、途端に何とも言えない居た堪れなさに襲われる。
「ごめん。俺、結構寝てた?」
どっちかと言えば、寝てたんじゃなくて気を失ってたって言う方が正しいかもしれないけど。
「ほんの30分ぐらいだよ」
そう答える多田さんの眼差しは確かに優しくて、だけど今までとどこか違うようにも感じられた。
「先にシャワーを浴びさせてもらったんだ」
少し眉を下げた顔でそんなことを言われて、自分の身体を確認すれば、もうどうしようもないぐらいドロドロになってたはずなのに、やけにさっぱりしてる。
意識のない間に、多田さんがきれいにしてくれたんだ。
「多田さん、拭いてくれたんだね。ありがと」
そのままにしてくれててよかったんだよ。こんなことしてもらうの、申し訳ないし、恥ずかしいしさ。
そう続けようとした言葉を、俺は呑み込んでしまう。
多田さんの瞳にゆらゆらと小さく揺らぐ光。それが何を表わすのか、気づいてしまったから。
そっと腕が伸びてきて、大きな手が俺の頭を優しく撫でる。温かくて心地いい掌。けれど、その手つきはどこかぎこちない。
「 ─── 楓くん」
呼び方が、元に戻った。
その意味を理解した途端、胸の奥が悲鳴をあげて、心臓を鷲掴みにされたみたいな強い痛みが身体を突き抜けていく。
「悪かったね。俺は楓くんのことを、何も考えてなかった」
待って。そんな言葉、俺は聞きたくないんだ。
「多田さん」
絞り出した声が震える。ここで起こったこと全部を否定されてしまいそうで、嫌な動悸が止まらない。
「楓くんは本当にかわいくて、一緒にいることがすごく楽しかった。我慢できなくて、立場を忘れて自分本位に抱いてしまって……申し訳ない」
まるでそれは、別れのことば。
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