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K01 : 熱の入江 46
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俺の髪を撫でていた手が落ちて、指先が右の耳に触れる。ピリリと走る鋭い熱は、さっきそこを噛まれたときに感じた幸福な服従の感覚を俺に思い出させる。
あの時確かに俺は、この人のものだった。
多田さんから与えられるものは、痛みだって愛おしくて堪らないのに。
そうやって突き放されたら、どうすればいいかわからないよ。
「……俺、大丈夫だよ」
絡まり合う視線が解けないように、俺は目の前の人を縋るように見つめる。
「多田さんの言う立場って、何? 結婚してること?」
小さく息を呑む多田さんの腕をそっと掴めば、ぬるい体温が掌に触れる。
たじろぎから生まれるわずかな隙を突くように、俺は言葉を続けていく。
「俺、多田さんといるとすごく楽しいよ。今日は嫌なことがあったけど、多田さんに優しくしてもらえて、そういうの全部どうでもよくなるぐらい本当に嬉しかった」
それがこの人の負担にならないように。ちょっと笑ってみせる。
「それに、エッチもめちゃくちゃ気持ちよかったしね。多田さんは、あんまりだった?」
「楓くん……」
睫毛の下から覗くきれいな瞳は、俺を映しながら小刻みに揺れてる。
あと少し。もう少し。にじり寄るように、距離を詰めていく。
「奥さんと別れてほしいなんて思わないし、そんなこと望まないよ。多田さんの都合のいいときに、一緒に過ごせたら。俺はそれでじゅうぶんだから。多田さんは、そういうの無理?」
それは、俺の本心に違いなかった。
多田さんは窺うように鼻先の距離で俺を見つめながら、ただ黙って聞いてる。
何かを言おうとして、形のいい唇がわずかに開いた。俺はその言葉を遮って、なるべく明るく聞こえるように、軽い口調でそっと想いを告げる。
「俺はね、多田さんのことが好きだよ」
ほら、これはそんなに重い"好き"じゃないんだ。
そういう雰囲気が伝わるように笑いかけてみる。
だって、この人を失いなくなかった。
一夜の過ちで終わらせたくなかった。
両腕を伸ばし、背中まで回して、手繰り寄せるように抱きしめていく。
多田さんは振り解かなかった。重なり合う肌から伝わるあたたかな体温は、融け合うような心地よさで。
俺は、絶対にこの人を離したくないと思ったんだ。
ふわふわした、不確かなレンアイでいい。
一緒にいられれば、俺はもうそれだけでいいよ。
「多田さん」
額をくっつけて見つめ合えば何だかちょっと照れくさくて、思わず笑ってしまう。
「楓……」
名前がその唇から零れた瞬間、2人の間の小さな空間が甘く揺れて。
唇が触れ合う寸前、俺は願いを口にする。
「俺を、あなたの愛人にしてください」
*****
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