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K02 : 春の海 33
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重苦しい空気がどうにも居た堪れなくて、俺は沈黙を破ってしまう。
「不倫なんて、やめとけよ」
蒼ちゃんの唇からこぼれた台詞は、至極真っ当なものだった。やましいことをしてるのはわかってる。それでも諦められないのは、俺の我儘だ。
「俺、女の子じゃないから間違っても子どもができることもないし、別に奥さんと別れてほしいとも思ってないよ。面倒なことは俺だって嫌いだしね。一緒にいるのが楽しいから、ちょっと時間を作ってもらってるだけ」
思ってることを言ってるはずなのに、なぜだか言い訳がましい口調になってることに気づいて、俺はいつの間にか視線を下げてしまってた。
「違うよ、楓。そんなことを言ってるんじゃない」
恐る恐る顔を上げれば、蒼ちゃんの真剣な眼差しが視界に飛び込んでくる。艶やかな黒い瞳は澄んでいてすごくきれいだ。
蒼ちゃんには、俺みたいにズルくて汚いところがない。だから、嘘もごまかしも通用しない。
「傷つくのはお前だって、わかってるだろ」
諭すような言い方に、不意に泣きそうになる。蒼ちゃんが俺を咎めてる理由がそんな優しいものなんだとしたら、何の心配もいらないんだ。
「大丈夫」
俺の軽々しい言い訳を、蒼ちゃんはただ黙って聞いてくれる。
「ちゃんとわかっててやってる。だから、傷つくことなんてないよ」
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