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K02 : 春の海 34
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軽い感じでへらへらと笑ってみせたけど、俺を見つめる険しい眼差しは変わらない。
怒ってるわけじゃないのは知ってる。だから尚更胸が痛い。
「話を聞くことぐらいしかできないけど、何かあればちゃんと言えよ」
「ん、ありがと」
それでも蒼ちゃんの口調はいつもみたいに優しくて、呆れて見限られなかったことに俺は心底ホッとしてた。
それからもう遥人さんの話が出ることはなかった。他愛もない会話を交わしながらひとしきり呑んで食べて、お腹がしっかり満足した頃には酔ってるせいか俺は何だかすごくいい気分になってた。
割り勘で会計を済ませてから蒼ちゃんの後に続いて店の外に出る。夜空に向かい両腕を上げて、伸びをしながらゆっくりと深呼吸してみた。夜の空気は昼間より澄んでて心地いい。肺の中の空気が残らず入れ替わっていくみたいな感覚がした。
ここはもともとメインストリートから外れてるから人通りが少ないんだけど、今夜はなぜかいつもより更に閑散としてて淋しい感じだ。
「1人で帰れるか」
蒼ちゃんの心配そうな顔がおかしくて、俺は笑って答える。
「平気平気。俺、そこまで呑んでないし。蒼ちゃんこそ、ちゃんと帰れる? 何ならおんぶしてあげようか」
茶化した俺の言葉に小さく笑ってかぶりを振る。顔色は全然変わってないけど、蒼ちゃんは意外とお酒に弱い。へべれけに酔って潰れたり、酒癖が悪かったりするところは見たことないけど、少ししか呑めないからいつも自分なりにセーブしてるらしい。だから、俺といるときもせいぜい乾杯の分ぐらいしか呑まない。
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