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K02 : 春の海 37
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月は夜道を歩く足下を静かに照らす。陽射しのような明るさはなくても、さり気なく必要な光を与えてくれる。
俺にとって蒼ちゃんは、そういう存在だ。今までも、これからも。ずっとこのままでいられればいいのに。
「 ─── 楓も」
俺をじっと見つめたまま、蒼ちゃんが口を開く。
「楓も、月みたいだ」
なぜだか心臓がどくんと音を立てて鳴る。見つめ合うその先で、お酒のせいかほんのりと赤く滲んだ眼差しは甘く揺れてた。
時々そういう表情をする蒼ちゃんを見る度に、ざわりと胸の内側がざらつく。
それが何を意味するかを訊きたかったけれど、知ってしまうと俺が大事にしてる何かが壊れてしまう気がした。
だから俺と蒼ちゃんは黙り込んだまま、ただ肩を並べて歩き続ける。
愛おしい時間は緩やかに2人を包み込む。永遠なんて存在しないのに、こうやってずっと歩いていられたらもしかすると幸せなのかもしれないと思う。
愛とか恋とか。独占欲とか嫉妬とか。そういうのは何にも関係ない世界で、当たり前みたいに呼吸するんだ。
何だか無性に淋しくなって、俺は手持ち無沙汰な右手を差し伸ばしてみた。蒼ちゃんの手を取って、節くれだった指を絡め取るように手を繋ぐ。
不思議なぐらい、気持ちが落ち着いてくる。蒼ちゃんは俺の精神安定剤だ。
こうして時々スキンシップを求める俺を、蒼ちゃんは振り解かない。いつだってそのまま受け入れてくれる。
「俺、蒼ちゃんのそういうとこが好き」
そんな俺に何も言わずに視線を流して、それからまた前を向く。その横顔は凛としてて、ほんとにきれいだった。
空に輝く月だけが、全てを見ている。
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