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K02 : 春の海 42
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巨大なプラントの建ち並ぶこの地区の存在はもちろん知ってたけど、来たのは初めてだ。埋立地に作られた工場街で、ここには民家や人の集まる施設がない。だから、普通に暮らしていれば足を踏み入れることもないようなところだ。
遥人さんは海に近い場所でおもむろに車をとめる。ポツポツと間隔を空けて何台もの車がとまってるのが見えた。
長い指がカーステレオを切ると、車内がしんと静まり返る。
俺は顔を上げてフロントガラスの向こうを眺める。海を隔てた先に広がるのは、プラチナに輝く建物の群れだ。
「わあ、きれいだね」
キラキラと星のように瞬く工場の灯りが眩しい。空に向かって伸びる幾つもの煙突からは、細く煙が立ち昇る。まるで未来都市にタイムワープしたみたいだ。
「すごい。本当に楽しいことが待ってた」
ワクワクするような光景を前に気分が高まって、俺は思わず遥人さんの手を取った。握り返してくれる手の大きさにどくりと心臓が高鳴る。
「工場夜景が好きで、ちょっと1人になりたいときにふらっと見に来るんだ。ここは、俺が1番好きな場所」
遥人さんの顔がゆっくりと近づいてきて、触れ合う直前の唇に甘い吐息がかかる。
「誰も連れて来たことがない。楓が初めてだよ」
その言葉を聞いた途端、俺は馬鹿みたいに嬉しくなってしまう。
今俺が見てるのは、遥人さんのとっておきの世界なんだ。
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