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K01 : 熱の入江 2
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「えっ? あ、えっと」
心臓が、バクバクとうるさく音を立てて鳴ってる。
ほとんど突き放すみたいな感じで慌ててその人から離れて、体勢を立て直してから向き合えばやっと全身が見えた。
20代後半ぐらいの男の人。整ったきれいな顔立ちは、知的で誠実そう。
背が高くて、スーツの上に黒のトレンチコートを羽織ってる。
心配げに俺を見つめるその眼差しを見て、やっと状況が飲み込めた。
この人、俺を救けようとしてくれたんだ。
「あの……俺、川に映ってる月を見てて、ちょっと酔ってるから手を伸ばしただけで。なんか気持ち良さそうだし別に落ちてもいいなぐらいには思ったけど、死にたいとかそういうの、キャラじゃないし、だから」
しどろもどろになりながら必死にそう訴えれば、その人はきょとんとした顔をして、それから急に表情を緩めた。
「───そうか。ごめん、てっきり。悪かったね」
冷たい感じがするぐらいに整った顔は、笑うとすごく優しそうになる。
魅惑の笑顔に惹きつけられていると、照れ隠しのように腕を伸ばして、子どもにするみたいに俺の頭を撫でてくれた。
掌がふわりと髪に掛かって、すごく気持ちいい。
まるで魔法に掛けられたみたいに、夜の世界がキラキラと輝きだす。
「俺の方こそ、ごめんね。紛らわしいことしちゃって」
顔を見合わせれば視線が絡まって、何だかおかしくなって2人で笑ってしまう。
ドキドキは止まらなくて、不思議なぐらい惹きつけられて目が離せない。
なんだろう、この妙な昂揚感。
ああ、どうしよう。
この人、めちゃくちゃタイプなんだけど……!
*****
「俺、男でも女でもイケるんだよねっ」
落ち着いた個室の居酒屋で3杯目の生ビールを煽ってからそう言えば、テーブルを挟んで向かい合う人は一瞬びっくりしたみたいに少しだけ目を見開いたけど、それでもにこやかな笑顔を絶やさない。
簡単にお互いの自己紹介を済ませて、わかったこと。
この人の名前は多田遥人さん。28歳で、仕事帰りに駅へと向かう途中、俺に出くわした。
出逢った勢いで駅前にあるこの店に入った1時間で、俺が得た多田さんについての知識はそのぐらい。
ああ、あともうひとつ。
ビールジョッキに掛けるその手の薬指に光る、シルバーの輝き。
安っぽいファッションリングなんかじゃない。細くて繊細なデザインの、硬質な光を放つプラチナリング。
この人は既婚者だ。
年齢的には結婚してて全然おかしくない。イケメンでしかも優しくて、包容力もありそう。女の人が放っとくわけがない。
でも結婚してるってわかった途端、俺はなんかちょっとガッカリしてて、そんな自分にびっくりした。
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