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K01 : 熱の入江 7
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自分を大切に、なんて。大切にすることの意味が俺にはよくわからない。
視線を落とした俺の頭に手を伸ばして、多田さんはポンポンと髪を押さえつけるように軽く掌を落とした。
「楓くんは、かわいいから。そういうことを言うと、皆本気にしてしまうよ」
9割以上本気なんだけど。子どもに言い聞かせるように顔を覗き込まれて、その瞳の優しさに俺は素直に頷いてしまう。
「ごめんなさい」
そう謝ると、多田さんは小さく息を吐きながら眉を下げる。
「叱ってるわけじゃないんだ」
多田さんは俺の頭をそっと撫でて、首を横に振る。
「悪かったね。そんなつもりじゃなかったんだけど」
多田さんが謝ることじゃないのに。
すっかり呆れられたのかなと思ったけど、そうじゃなかったことに俺は胸を撫で下ろす。
ちょっと変な感じになった空気を元に戻したくて、大きく頷きながら笑ってみせた。
「うん、わかってるよ」
頭に触れる掌はすごく暖かくて、その心地よさにうっとりとしてしまう。
この人の手は、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
「楓くん、またね。気をつけて」
「ありがとう、またね」
具体的じゃないけれど、次の約束。すごく嬉しくて顔が綻んで、遠ざかる姿にいっぱい手を振る。
運命なんて言うと大袈裟だけど、この人と出逢ったこの夜は、俺にとっては奇跡みたいな時間だった。
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