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K01 : 熱の入江 10
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「うん。この間、飲み会の帰りにさ」
俺は多田さんと出逢ったときのことを順を追って話していく。
この興奮を誰かに伝えたい。その相手に美桜ちゃんを選んだことには、ちゃんと理由があった。
「……珍しいね」
ちゅるちゅるとストローでアイスティを吸って、開口1番に美桜ちゃんが言った言葉がそれだった。
「楓が恋に堕ちるなんて」
「俺、恋はいっぱいしてるよ。どっちかっていうと経験豊富な方だと思うし」
「知ってる。だけど、恋はしても恋に堕ちない。それが今までの楓」
淡々と謎掛けみたいな言葉を口にする美桜ちゃんの瞳が、秘密を見つけた子どものようにきらりと煌めく。
「いいんじゃない。その男の人は、条件に当てはまってる気がする」
「条件?」
「うまく不倫する条件」
口角がきれいな角度で上がって、そういえば久しぶりに美桜ちゃんの笑顔を見たなと思った。
*****
『楓、ホテルに行こうか』
カフェに行こうか、と同じノリで美桜ちゃんが無表情にそう言ったのは、大学1年生の6月のことだった。
ちょうど梅雨の時期で、4限の授業が終われば薄暗い雲で覆われた空が今にも泣き出しそうに震えてた。
俺は美桜ちゃんと2人で授業を受けてて、一緒にキャンパスの門を出たところ。朝は天気が良くて傘を持って来てなかったからコンビニでビニール傘でも買おうかな、なんて思ってたときに、美桜ちゃんからまさかのそんなお誘い。
『へ? うん、いいよ!』
ふたつ返事で大学の最寄り駅近くにあるラブホテルに入って、部屋の写真がズラリと並んだ光るパネルを眺める。
『好きなとこ、選んでいいよ』と言おうとしたら、美桜ちゃんは目の前のボタンを勢いよく押した。選んだ理由は、多分そこが1番押しやすいところにあったから。
性欲を満たすためだけに作られた部屋の鍵を閉めて中に入れば、ピンク色のシーツが掛かった大きなベッドが広がってた。
『美桜ちゃんって、俺のこと、ちゃんと男って認識してくれてたんだね。なんか意外』
危険なところに咲く一輪の花は、ベッドに腰掛けて両手を伸ばす。
『楓、キス』
端的なねだり方。俺はゆっくりと近づいてそっと柔らかなそうな唇に口づける。
淡いピンクのリップグロスは、ほんのりと甘い味がした。
舌を絡ませながら背中に手を這わせて、ワンピースのファスナーを降ろしていく。掌で辿る背中は華奢だけど女の子らしい柔らかな肉づきで、俺の中の男がむくむくと頭をもたげ始める。
『美桜ちゃん、シャワー浴びる?』
唇を離してそう訊けば、美桜ちゃんは首を振った。
『いい。楓は?』
『そっか、よかった。俺もね、早く欲しい……』
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