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K01 : 熱の入江 13
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「うまく不倫する条件って、何?」
不倫に上手い下手ってあるんだろうか。
俺の疑問に、きれいな顔をした不倫の専門家が答えてくれる。
「不倫を昼ドラみたいにドロドロにしないためにはね」
俺、昼ドラなんて見たことないんだけど。
それでもとりあえず頷けば、美桜ちゃんはゆっくりと目を細める。まるで、俺に向ける眼差しの強さを和らげようとするみたいに。
「幸せな家庭を築いている人を相手に選ぶこと」
「──え? 逆じゃない?」
美桜ちゃんの言葉は目から鱗だった。だって、家庭がうまくいってない人の方が不倫してるイメージだし。
「奥さんと仲が悪い人と関係を結べば、そのうち離婚して一緒になろうとか言い出すものよ。でも、離婚するのってすごく大変なこと。お金も時間もかかるし、簡単にできることじゃない。それに、不倫してることが奥さんにバレたら、こっちも裁判でお金を請求されかねないし」
「そうなんだ。詳しいね」
美桜ちゃんは、当然でしょ、という顔をした。今までにいろんな修羅場を潜り抜けてきたのかもしれない。俺にはちょっと怖くて聞けないけど。
「うまく不倫するには、奥さんと仲のいい人を選ぶこと。相手の家庭が円満だったら、不倫はこじれないし面倒なことにならない。その人は家庭を壊さずにおいしいとこ取りをしようとするからね。
だから楓の言う人は、不倫しても大丈夫な人という気がする。ただし」
淡いピンクのリップが細いストローを咥えて、アイスティーを飲み干していく。
透明なグラスの中で、融けてきた氷が少し残った琥珀の液体に揺れて、くるりと滑りながら回った。
「真剣に愛するには、不向き。これは不倫全般に言えることだけどね。ごちそうさま」
美桜ちゃんはスッと立ち上がる。約束の時間が近づいてるんだ。
「またね、楓」
真剣に愛するには、不向き。
最後の言葉は、忠告だ。店の出入口へと遠ざかる華奢な後ろ姿を見つめながら、俺は心の中で呟く。
大丈夫。誰かを愛するなんて、ありえないから。
そうだ、絶対に。
大学の春休みは、すごく長い。俺にとっては楽しい長期休暇も、誰かにとってはつまらないものだ。
美桜ちゃんがこうして講義のない日に大学でフーコーを読み耽るのには、ちゃんと理由がある。
彼女の今の相手は、現代哲学の教授。
だから春休みなのにこうして毎日大学に通い詰める。
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