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K01 : 熱の入江 20
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頑張って明るく言ったつもりだったのに、どこか不自然だったのかもしれない。
「ううん。何でもないよ。蒼ちゃん、ありがと。またね!」
強引に通話を切ってから、溜息をつく。
本当のことなんて、絶対に言えない。蒼ちゃんになら、尚更だ。
じゃあ誰に連絡しよう。涼平は昨日大学で会って、確か今日も女の子とデートするとか言ってた。美桜ちゃんは実家暮らしの女の子だし、夜通し付き合わせるわけにもいかない。
頭の中で、連絡の付きそうな人を考えようとする。
今はセフレの元恋人とか。
時間を持て余したときによく連絡する、割り切って過ごせる相手とか。
携帯電話の中にはそんな気軽に会える人たちの連絡先がいっぱい入ってる。
片っ端から架けていけば、きっと誰かは捕まるんだ。
でも、本当に今夜を一緒に乗り切ってほしい人はこの中にいない。
なぜかすごく虚しくなって、何度目かの溜息をつく。
一晩ぐらい、1人で何なりと時間を潰せる。でも、1人で過ごしたくない。そんな我儘な気持ちが俺の中で曖昧に揺れながらせめぎ合う。
掌の中に収まってるたくさんの電話番号を指でスライドさせて、ある一点でピタリとその手を止める。
ディスプレイに映し出されるのは、最近新しく登録された名前だった。
───多田さん。
忘れてたわけじゃない。それどころか、兄貴といたときも思い出してたぐらいだ。
顔も雰囲気もめちゃくちゃタイプで、すごく優しくて。もう一度、会いたいなと思ってる人。
今日は土曜日だから多田さんはもしかしたら仕事が休みで、奥さんと2人水入らずで過ごしてるかもしれない。
それでも、少しでいい。多田さんの声を聴いたら、なんだか元気が出そうな気がする。
別にやましい関係じゃないんだし。奥さんが一緒でもちょっと連絡するぐらいなら、大丈夫かな。
ドキドキしながら、恐る恐る電話を架けてみる。
何回目かのコールで「はい」と優しい声が聴こえて、心臓が大きな音を立てた。
「もしもし? 多田さん、俺のことわかる? あ、急には思い出せないかな。あの、ほら。この間さ」
一気にまくし立ててしまえば小さく笑い声が聴こえて、それだけでなぜか気持ちがふんわり解れてく。
『忘れられないよ。橋の上で出逢った、楓くん』
名前を呼んでもらって、それだけでめちゃくちゃ嬉しくて顔が綻んでくる。心の中でもやもや考えてたこととか、もう全部吹き飛んでしまってた。
「多田さん、今何してる? もしかして、奥さんと一緒?」
『ううん。仕事で外にいるんだけど』
「うわ、そうだったんだ。ごめんなさい」
仕事中にこんな電話、きっと迷惑がられてる。
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