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船へ
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バスは山を抜け街に出る。天気は快晴で窓から差し込む光が暖かく、心地よい温度に包まれた。
後部座席からの賑やかな声とバスのエンジンの微かな振動、植松くんのスウスウという寝息も相まって俺もだんだん意識が霞んできた。
「いッ______!」
ゴンっという音と共に顎に強い衝撃が走り一気に覚醒した。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。顎を抑えながら隣を見ると、側頭部を抑えながら痛みに耐える植松くんがいた。
きっと起きた時に俺の肩から離れようとして当たったのだろう。車内にはもうすぐ到着するから準備しろという旨を伝えるアナウンスが流れており、周囲はゴソゴソと身の回りを整えている様子である。
「おはよ」
「あ、あぁ…」
挨拶すると気まずそうな植松くんが頭を抑えながら返事をよこした。
「……その、ごめん」
「あぁ、全然」
チラチラこちらを伺うように謝るものだからついつい苦笑した。悪いことをして主人の機嫌をうかがう猫のようだと思った。
日も高くなったようで車内は先ほどよりも温まっており、睡眠による体温の上昇もあってか背中が少し汗ばんでいた。
「あつ…」
そう言いつつシャツのボタンを1つ外しパタパタと仰ぐことで身体に風を送る。たまらないほど暑いということではないが、春先特有の三寒四温に振り回されて最近体温機構が弱ってるように感じる。上に羽織っていたセーターをカバンにしまい、カッターシャツの袖をまくるとちょうどいいくらいの温度に感じた。
隣を伺うと、植松くんは手を太ももの下にしまい肩が強張っていた。どうやら少し肌寒いようだ。
「もしかして寒い?」
「え?…あ、あぁ。……ちょっと冷え性なだけ」
カバンから再度セーターを取り出して植松くんに差し出す。
「使う?俺暑いからいらないんだけど」
そう言うと植松くんは少し目を見張ってこっちを見た後、迷うような視線の動きをした。「遠慮しなくていいよ」とセーターを広げて背中にかけると「ありがと…」と大人しくそれを着た。
着せた後で汗臭かったらどうしようと思ったが、今更やっぱり返してとも言いづらいので植松くんの嗅覚が鋭くないことを祈った。
間も無くバスは停車し、順番に下車すると目の前には大きな船がいくつかと、潮の香りが広がっていた。細やかな風に乗って船のボーッという低音が流れてきた。近くでは「うわー海だ〜」という感嘆の声が上がっている。
植松くんは相変わらず風に吹かれて寒そうだが、俺には少し涼しくてありがたい風だった。
「荷物受け取った人からこの船に乗ってください!」
何かの委員の人だろうか、必死に誘導しておりその声を聞いてぞろぞろと生徒が移動している。
船では座席指定など特になく、甲板に上がろうがロビーで談話しようがどうぞご勝手にという感じである。
俺は前の集団の中ににアッキーの姿を見つけたので早歩きで追いかけた。
「アッキー」
呼びかけるとアッキーは振り返って手を軽く上げてくれた。
「腹減った」
「お前寝てただけじゃん」
「まぁそうだけど。アッキーは?」
「別に普通に座ってた」
「腹減ってないの?船の中で食べられるらしいけど」
「あー……どうしよう。担々麺なら食えるわ」
雑談をしながら船内に入る。どこに行けばいいのかわからないためなお人の波に乗って進むと少し開けた場所に出た。
そこでは幾つかの列ができており、もう一度クラスごとに整列し直すのだろうということがうかがえた。
しばらくうとうとしながら並んでいると頭にドスっと重い衝撃が降ってきた。
「ちょっと邪魔なんだけど!」
理不尽なものの良いように何事だと後ろを振り返るとそこには先日ドンパチした都賀屋様親衛隊のナミちゃんこと並木海斗くんが不機嫌そうに立っていた。
「あ、ナミちゃん」
「その呼び方やめろ!」
つり目がちの猫目をさらに釣り上げてズカズカと近づいてくる並木くんは般若のようだ。
「お前、結局都賀屋様と同じ部屋になりやがったな!ふざけんな僕に代われ!!」
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