アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
99話 戌井宅
-
このくらいの時間に、と待ち合わせをして
並んで戌井の自宅へと向かった
「薫ちゃんってこういうのが好きなの?」
戌井の言う、こういうのとは
目の前に並ぶオムライスとスープだ。
シンプルだけど、卵の半熟加減は自分的に難しい。
だから何度も練習してやっと出来るようになった
しかし目の前にあるこのオムライスは
自分で作った物とは比べ物にならないくらいの職人技だ
まるでレストランのメニューの中にあるオムライス。
「凄い……こんなに美味しそうなオムライス、作った事ないです…」
「薫ちゃん料理するんだ?」
ふーん、と何かしらの意味がこもった笑みを浮かべてそう言った。
「しますよ、うちの兄が家であまり食べないんでちょっとでも栄養が摂れるように……あっ、でもこんな感じの料理じゃなくて、本当質素な物ですけど…」
得意げに言った自分が恥ずかしくなってきた
この料理には到底敵わない…。
「今度作ってよ、俺にも」
「えっ……!?いや、でも…お口に合わないかも…」
ニコニコしながらそう言った戌井に
両手を振り、そんな物を食べてもらうのは申し訳ないと素直に思って断ったのにそれでもいいと言ってくる
「薫ちゃんの手料理が食べたい」
「…………いっ、いいんですか?このレベルの物は作れないですよ…?」
「作ってくれるの?」
「………………………はい」
(プレッシャーが凄い…自信ないよ…)
承諾した途端手に汗が滲み、まだ先の話なのに今から緊張が高まる。
その時が来るまで、家で練習しよう…
「とりあえず食べよっか」
「はい…っ!…いただきます!」
オムライスを一口食べた瞬間思わず目が見開いた。
何だこの美味しさは…!?
本当に手作り?レトルトを駆使して作った物では?
人生でこんなに美味しいオムライスは食べた事ない
将洋さん、あなたは一体幾つ才能を持てば気が済むのですか。
「どう?」
「美味しすぎます…!!こんなオムライス食べた事ないです、本当に美味しい…!!」
「本当?良かった、頑張った甲斐あったよ」
「こんなに料理が上手くて、格好良くて仕事も出来たら凄くモテるんでしょうねぇ、羨ましいなぁ…」
ハッとした、つい思った事がそのまま口に出た。
完全に僻みにしか受け取れないでしょ、今の。
そんな自分に嫌気が指して戌井をチラッと見る
「羨ましいの?」
「えっ……あ、はい…だって、僕は何の取り柄もないし」
さっきまでニコニコしながら頬杖をついてこちらを見ていたのに
目の色が変わり、不思議そうな顔で見ている。
「俺だってないよ、そんなの」
「(ムッ…)有るじゃないですか、幾つも才能を持って……本当に、羨ましいです」
「んー才能って何だろうね?そんなのを評価されるより、俺自身を理解してくれる人がいれば何もいらないし、それでいいかな」
「………」
ぐうの音も出なかった。
そうでしょ?と微笑まれて
そうです、としか言いようが無い。
彼には敵わない、人間性も何もかも。
「あ、キッチンにまだ少し残ってるよ、食べる?」
「将洋さんは…?食べてないじゃないですか」
「いいのいいの、作ってる間に味見とかして割と満たされてるから」
「そうなんですか?………じゃあ、食べたいです」
「ふふ、取ってくるね」
キッチンへ向かう後ろ姿でさえ格好が良い。
お皿に盛り付けられたさっきより小盛りなオムライスは
相変わらず美味しそうでクオリティーが高い。
「結構食べるんだね」
「普段そんなに量は入らないんですけど、このオムライスは美味しくて何杯でもいけちゃいます」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいなぁ」
そんな笑顔で見られると、食べづらくなって
だんだんペースが落ちてくる。
こんなに優しく笑う彼に胸が苦しくなった。
「どうしたの?」
「いや…っ、なんか、見られてると…」
「あ、食べづらい?ごめんごめん、食いっぷり最高だったからつい見惚れちゃった」
「………(恥ずかしい)」
何とか最後までオムライスを平らげた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 116