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--回想 10年前--
律郎(モノ) --- あいつは元々俺の部下で、
天真爛漫なうえにちょっと
あぶなっかしい所があって
目が離せなかった。
やがて俺達はひかれあい、
一緒に暮らし始め、1年を過ぎた ---
病院内。
律郎「なん…だって…オヤジが…」
りつこ「そうなのよ…信じられないでしょうけど、余命あと1年だって…」
律郎「そんな…」
りつこ「母さんだって信じたくないわ。父さんあんなに元気に見えるのに…」
ボロ泣き、取り乱す寸前の母。
律郎「おちつけよ」
りつこ「おちつけ?…おちついてなんかいられないわよ…。ねぇ律郎、早く結婚してちょうだい。父さんあなたの花嫁を見たいって言ったのよ。孫は間に合わなくてもせめて嫁だけは、って…」
律郎「無茶言うなよ」
りつこ「今一緒に住んでる人がいるって言ってたわね。どうなの?お相手の方、その気はあるの?」
律郎「…」
律郎(モノ)---俺は結局、母親の泣き落としと
父親の余命という事態に折れた。
二ヶ月で見合い相手を見つけて、
三ヵ月で結婚。 式まで挙げる親孝行をした。
上司と部下という表面上、
式に呼ばないわけにもいかず
出席しないわけにもいかず、
あいつは常に微笑んで余興では笑いまでとって。
俺の〝 幸せ〟を見せつけられていた
あいつの心は誰よりも 俺が感じとっていた ---
--回想終了--
律郎の左手薬指に指環はない。
律郎(…もっとも、その後にあんな〝喜劇〟が起こるなんて… まったく人生はわからない)
退社し、駅へ向かう律郎。
まだ人で賑わっている人ゴミをぬい、展示され
ているらしき場所に向う。待ち合わせ場所にも
なっているらしく 数人が佇んでいる。
目に飛び込んでくる〝 硝子の靴 〟。
靴と砂浜を思わせる細かい粒。
貝がら等すべて硝子で出来ている。
左右の大きさが少し違う靴。
律郎「------ ・・・ 」
思わず近寄り展示品を仕切る
ガラスに手をつく。
作品タイトル〝 シーズン・オフ ~ 春 ~〟
--回想--
砂浜を歩く2人。
律郎と仁の靴はサイズ違いのおそろい。
仁「くあ~~~っ、〝 春の海ひねもすのたりのたりかな 〟だっけ?今まさにそーだよな」
律郎「お前意味わかってんのか?」
仁「わかんねー〝 ひねもす〟ってそもそも何?」
律郎「…いや、俺にもわからん」
仁「じゃあ、この感覚が〝 ひねもすのたりのたり 〟でいーじゃん。そう感じたんだからさ」
足元の貝ガラを拾う仁。
仁「これ、もって帰って部屋に飾ろーぜ」
律郎「どうせその辺に置いといてホコリかぶるだけだろ」
仁「かぶんねーよっ、マメに掃除するからさ」
勝手にどんどん拾い集める。
仁「あ、コレ〝 タコのマクラ 〟ってゆーんだぜ。ウニの仲間なんだってよー」
律郎「ホントなのか?」
仁「何だよー、そのハナっから信じてないって顔付き。おれ小さい頃さー、コイツのこと乾涸びた宇宙人だと思ってたんだ」
思わず小さく吹出す律郎。
律郎「バカかお前」
仁「律郎だって小さい頃に見かけただろ、何か思わなかったのかよ?」
律郎「何も」
仁「えー」
キラキラした、楽しい思い出。
笑いあっていた2人。
--回想終了--
あの時履いていたおそろいの靴が
硝子になっている。
律郎(俺と、あいつの靴…)
展示品をよく見ると〝タコのマクラ〟と、
その傍らに小さな硝子の宇宙人がひょっこり
顔をのぞかせている。
泣きそうになりながらも吹出しそうにもなり
感情を堪えるのに必死な律郎。
律郎(俺は、乾涸びたクラゲだと思ってたから、見つけるたび海に投げ入れてたんだけどな)
スーツポケットから住所メモを取り出す律郎。
スマホを取出し、仁の連絡先を押す。
何度かコールがあってつながる。
律郎「もしもし、…藤田です」
仁『…うん、今、もらった名刺見てた』
律郎「そうですか」
仁の手には名刺、スマホナンバーが、
手書きで書き加えられている。
仁『 おれのこと、覚えてる? 』
律郎「もちろんだ。そっちこそ記憶喪失にでもなってるかと思ったぞ」
仁『 …なってねーよ。…こっちに来たの、いつ? 』
律郎「2年前だ」
仁『 そっか、おれ5年前 』
律郎「思いきった転身だな。芸術家になってるとは考えてもいなかった」
仁『 ってゆーかむしろ職人だよ 』
律郎「今、駅ビルでお前の作品見てる。会いたい」
仁『・・・ 』
律郎「どこにいる?」
仁『アパート… 』
律郎「じゃぁアパートに行っていいか?」
仁『嫁さんは?早く帰らなきゃダメだろ』
律郎「離婚した」
仁『 …そっか… 』
律郎「30分でで着く。待っててくれ」
仁『・・・・・・ 』
律郎「行くから」
仁『…うん… 』
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