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33.覗いた世界。
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『友希ごめん!今日撮影で着る衣装、昨日着て帰っちゃってて家に忘れてもうてん。ほんまにゴメンやけど、事務所まで届けてもらえん?』
てメールが、風呂に入ってる間に入ってた。
なんやのそれ、って思ったら笑えてくる。だいたい衣装を着て帰るのも意味分からんし(買取って制度はあるらしいけどな)それを撮影の日に持ってかんってどういうこと?
中村からのメールが入って直ぐに部屋をきょろきょろしてみたら確かに見たこと無いジャケットが落ちてた。メールには続きがある。
『部屋に帽子とサングラスも忘れてきてん!机の上に投げてるからそれもお願い。ほんまにゴメン!ちゃんと埋め合わせはするから!』
何度も入れられてる『!』マークが可愛い。そんな必死にならんでも持って行くって。日曜の昼下がり、俺は服を着替えてからタクシーに乗った。目指すは中村のいる事務所。
「へー、こんなおっきいんや」
ビルの入口に着いて、見上げるとどこまでも続くような高さに圧倒される。ほんまに中村はこんなとこで働いてんの?あんなお子ちゃまが?
自動ドアが開いて(当たり前だ)左手に受付がある。セキュリティが完璧なこの会社は今の時代当たり前のIDカードでしか、関門を突破できないらしい。俺は受付の女性に話しかけた。
「あのー、すみません。中村に・・・中村悟さんに頼まれものをしてお伺いしたんですが」
「中村様に、ですか?」
「あ、はい。松田と申します」
明らかに不審者を見るような目つきでその綺麗な受付嬢は俺を頭のてっぺんから足のつま先まで舐めるように見た(ような気がした)。この年齢ではなかなか珍しい、慎重な子やなぁ、と思うと同時に、こんな子を受付に起用するあたりが上坂さん鈴木さんらしいと思った。
「少々お待ち下さい。確認致します」
「あ、お願いします」
紙袋を持ったまま小さく頭を下げた俺はフロントをきょろきょろするしかなかった。このビルは事務所もあればスタジオもあるんか。移動時間の短縮を考えて、自社スタジオを作ったってところか。はたまた他に目的があったんか。俺は受付嬢の返事が来るほんの1、2分が一時間にも二時間にも感じられてそわそわした。
「はい、はい。承知致しました」
どうやら話が終ったらしく、さっきとはうって変わって作りに作った笑顔で俺を見た。
「松田様、先ほどは大変失礼致しました。鈴木主任から失礼の無いようにスタジオまで案内するように仰せつかりましたので、早速ご案内致します。こちらへどうぞ」
「あ、はい」
立ち上がると更にすらりとした身長が美しさを際立たせて、俺の前に現れた。明らかに俺よりも高い身長。もう一人の女の子に、ちょっと空けるから、と伝えるとその子も小さく頷き俺に向かってぺこりと頭を下げた。
どちらもかなりの美人。
きっと彼氏とかもめっちゃかっこよくて、自他共に認める美男美女、とか言われるんやろなぁ。とかくだらんこと思いながらその背中を見てついて行ってると、ふと脳裏をよぎった。もしかしたら、この人も、中村のこと好きやったりして。
そんなヤキモチじみたことを考える自分に嫌気がさした。
スタジオは10階。エレベーターで昇ると直ぐにスタジオが広がってた。「こちらへ」と軽く会釈されながら指された先に、息も出来なくなるくらい自分の住む世界と全く別の世界が広がってた。そしてその真ん中には中村の姿。
スタジオの端でカメラマンと話しながら手帳に何か書き込んでた鈴木さんが受付の女性に連れられた俺に気付いた。お、と言う顔をして、軽く手を上げる。
「遅くなりました」
ぺこりと頭を下げて近づいて来る鈴木さんに持ってた袋を見せる。
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