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34.覗いた世界。
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「ほんまごめんなぁ、松田くん。あいつ勝手に着て帰っててなぁ、めっちゃ怒ってんけど、いくら怒っても服はないやろ?ほんま困ってたんや。お詫びといっちゃあなんやけど、ゆっくりしてってな」
「いえ、どうせ暇だったから大丈夫ですよ」
ほんまにええ子やなぁ、と呟いた鈴木さんは「あ、きみありがとさん」と告げ、受付の女性を帰した。ぺこりと深く頭を下げると踵を返して戻っていく。あ、中村見ぃひんのや。・・・なんて、あほな事を。
鈴木さんがカメラマンに声を掛けて、カメラマンが手を上げて「じゃあ、ちょっと休憩」と中村に声を掛けた。そのときようやく俺の存在に気付いたらしい中村は、ぱああっっと満面の笑みを浮かべて俺の方へ走ってくる。
「友希っ!ありがと!ほんまゴメンな!!」
「ほんまや、ぼけ。松田さんに真剣に謝れ!」
「そんなん鈴木さんに言われんでも一番反省してるし・・・」
「あ?」
「えーよえーよ、ほんまに。今日は家で絵描くだけやったし。それに、なんか中村の仕事してる顔見れて、ちょっと得した気分やしな」
はい、と中村に袋を渡すと「あーっこれこれ!ほんま助かったぁ」がさがさ袋をあさってからきょろきょろと周りを見渡して、一人の女性に駆け寄っていった。何かを話して、ぺこぺこと頭を下げて袋を渡す。スタイリストかな?そして直ぐに戻ってくる。一瞬いなくなった鈴木さんが缶コーヒーを片手に戻ってきた。
「松田くん、ちょっと今これしかないから」
「あ、ありがとうございます」
「今度、ちゃんとお礼させてな?」
「え、いやほんまに・・・」
「さっきそこで上坂に会うて、松田くん来てるっていうたら、後で顔出すって言うてたしな」
「は、はあ、なんか逆にすみません」
「ええのええの、あいつは単に松田くんに会いたいだけやろ」
「はあ!?何考えてんのあの社長!」
突然大声を出す中村にビビッた。コーヒーを飲もうとプルタブに指をかけてたんに、落としそうになる。中村を見ると結構真顔でドアの向こうを睨みつけてるからなんか笑けてきた。でも、
「こら、中村。社長さんやろ、そんな風に言うたらあかんやん」
「・・・うー」
「うーやない」
「・・・はい」
「ほんま犬やな」
そんなやり取りをみて鈴木さんが噴出した。あかん、恥ずかしい。ここ家やなかった。恥ずかしくなって、
「ほな、お言葉に甘えて、俺端っこで見てます」
「友希、見ててくれんの?僕めっちゃ頑張るから!」
「はいはい」
子供のようにガッツポーズをしてスタイリストのところに走って行く中村は、可愛い。ほんまに純粋。そして、そんな中村が、好き。
とぼとぼとスタジオの端っこに行って改めて見回す。ジャンルは違えど、同じ芸術系の仕事。憧れが全く無いわけやない。中村を囲むシートとミラー。ライトとカメラ。全て計算された光の角度で、中村を最大限に生かす物だけがここに集まっている。
そんな中心にいるのは中村悟。
家にいるときはぼーっとして、ぐうたらして、お菓子とジュースを食べて、俺の作ったオムライスを食べる。そんな普通の青年が、カメラの前に立ったとたん、空気がピンとなったのがわかった。
さっきまで紙袋に入っていたジャケットのシワが見事に伸ばされ、帽子の型も綺麗に戻されてそれらを見に纏った中村。カシャと言う音に反応して、目を伏せたり天を仰いだり、たまにはカメラを睨んだり。
どこでそんな表情覚えたん?って聞きたいくらい、見たこと無い真剣な表情ばかりの中村悟。
やっぱり、中村は世界に通用すると思う。胸の置くがぎゅってなって息が苦しくなった。
カシャ、カシャ、カシャ
あー、どうしよ。ほんまに俺、ダメや。
足枷にしかならない自分の存在。大勢の人間に囲まれた中村を見てたらなんだかいたたまれなくなって、もう帰ろうと、歩き出したとき、
「おー、松田くんvvvこんなとこまでごめんな」
「上坂さん」
「あいつほんま責任感ないなー、しばいたろ。あ、ゆっくりしてって、今日は晩飯ご馳走するから」
「いや、そんなつもりやないですから」
「えー、そんなん言わんといて、淋しいやん」
上坂さんが現れた。
この人も昔きっと何か表舞台の仕事をしてたんやと思わせる身長、肌の艶、肌の色、そしてハーフのような顔立ち。現れるなり肩をがしっと抱かれて矢継ぎ早に言われた。昔から強引で、何回断っても毎日のように俺らの前に現れた上坂さんは、その当時から全く変わってへん。上坂さんの登場に気付いた鈴木さんがゆっくりと近寄ってくる。
「上坂、離したり」
「えー、なんでよ」
「中村の調子が狂う」
「は?」
「ええから」
小声過ぎて何を言うたのかはっきりわからんかったけど、上坂さんの手が離れた。物凄く残念そうな顔をして中村と俺を見比べ、ふーん、と呟いた。
「なあ、鈴木、この後って女の子入る?」
「ん?ああ、モデル?入んで?それがどう・・・お前まさか」
「んー。その子ストップな」
「おいっ、上坂!あかん!そんなんでき、」
カメラのシャッターを切る音に掻き消される二人のナイショ話は俺には届かない。だから俺は無視して撮影を見てた、ところを再び上坂さんにがしっと肩を掴まれた。あまりの勢いにぐらりとよろめいた。
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