アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
36.僕が守るから。
-
「3分休憩でーす」
もう何十枚って撮ってから、アシスタントの声がスタジオに響いた。ヘアメイクが僕の髪を弄りながら時計をちらりと見た。そうや、今日は友希を待たせてるから早めに終らせんと。
頭を触られてる間はそこから動けないから、目だけで友希を探した。さっき鈴木さんと社長と話してた、待ってるって言うたからおるはずや、と思って見たんやけど、あれ?どこいったん?友希?
変わりに渋い顔した鈴木さんとめっちゃ嬉しそうな社長がおる。友希は?ねえねえ、鈴木さん、友希は?
「続いて女の子入りまーす」
休憩っちゅう休憩も取らんまま、首を回して女の子を迎える。さ、ほんまに早く終らせんとな。友希も退屈しておらんくなったみたいやし。(かなしー)
今日は初めて会うグラビアアイドルの子。ある程度知ってる子やったら適当にいけるけど、初めての子はさすがにあかんやろな。慣れるまでは感情はいらんもん。ちゃんとこの子のこと考えたらんと。・・・て、
「・・・え!?」
「あ、あは」
「ゆ、」
「撮りまーす」
声も出ない僕を無視してカメラマンからの指示が飛ぶ。
「中村君、女の子の肩に顔埋めて」
「抱き締めたままね、もっと強めに、いける?」
・・・いけるわけない。
なんで?なんで?なんで?なんで、ここに友希がおるん!!
本との髪よりも濃い茶色い緩いウェーブのかかったウィッグに、ほんのり化粧をしてふわふわのスカートを履いた友希が、なんでここに!?
パニックになりつつも僕はカメラマンの指示に従うべく動く。動くよう努力する。でも、できるはずないやん、友希やで!?
カメラマンは今日来るはず、というかほんまはここにおるはずやった子の名前を叫んでるから、知らんかったってことらしいけど、さっき友希を連れて来たアシスタントの子は微妙に顔が笑ってたから、知ってた。どういうこと?なんのどっきり?顔を動かせん僕は視線だけで社長と鈴木さんを確認すると、ものっそにやにやした人と、顔の前で両手をついて軽く頭を下げてる人。
・・・・・・そうか、あの無邪気大王おっさんの思いつきか!
血が出るんやないかっていうくらい唇を噛み締めた。友希にこんなことさせやがって!あのくそじじい!
「友希」
小さく声をかけると、ぴくんと肩を揺らした。
なんで友希からはこんなにも甘く、官能的な香りがするのだろう。こんな状況下の中、僕の脳裏をよぎったのはそんなこと。さっきまでの集中力なんて微塵も無くなって、とにかく、これ以上友希に触れないように、理性の壊れそうなこの状況を受け入れないように、それだけ努力していた。必然的にできる微妙な距離。そんなんわかってる、わかってるけどどうしようもないやん!
ここで、こんな甘い友希を抱き締めたら、僕は今ここがどこかなんて忘れて友希を襲ってしまいそうなんやもん!
少し俯いた友希からは上から見える頬の上部だけがほんのりと紅く染まっていてまるで、桜色のチークを塗っているかのよう。僕の理性は限界。カメラマンの指示は右から左。さっきまでいとも簡単にできてたカメラマンの要望に応えるということが、この世の一番理解しがたいことに成り下がっていた。
そしてそのまま時間だけが過ぎていく。あかん、こんなん、どうしようもない。
「ごめんな・・・なんか・・・変なことになってもうて・・・」
その時友希が小さく呟いた。少しだけ震えながら。
・・・あかん、なにやってんの、僕。
一番不安なのは友希やのに。突然わけもわからんまま、社長の思いつきで、やったこともないモデルをやらされ、複数の人間から集中砲火を浴びるような視線に晒されるこの状況。しかも女装までさせられて。
「大丈夫、僕がリードする。友希はなんも考えんと大丈夫やからね」
「・・・うん、ごめん」
「お願いやから謝らんで」
「うん」
そうや、こんな状況下で友希を守ってあげられんのは自分しかおらんのに、僕は自分のことしか考えてへんやった。
サイテー。
ようこんなんで友希を好きなんて想ってられんな。僕は友希を抱き締める腕に、ぐっと力を込めた。
もう離さん。絶対はなさへん。
「きししし。やっぱええなー、目つきがちゃう。今度の雑誌は5割り増しやで、な、鈴木」
「・・・ああ、そうやろな」
やつの想いがこれでもかと言うほどに、目の前のたった一人の人間に注がれてるこの光景。俺でさえもドキッとする。こんなん世の中の女の子なんて悲鳴あげんで。
匂うほどに感じる中村悟の想い。さっきなにかの瞬間に、とまどいからそれに変わった。やはり天才。そしてそれを引き出したのは紛れも無く松田友希。それは松田友希にしか出来ない。そしてそのシチュエーションを一瞬で作り上げるもう一人の天才。
「でも気付いてへんのやろな~、あの二人」
「え?なにが?」
「あ?お互いにめっちゃ好き好きーってこと」
「・・・え、ほんまに?悟はええとして、松田君も?」
「なに鈴木、それ本気で言うてんの?」
「・・・」
「冗談は顔だけにしてやー」
げらげらと下品な笑いがスタジオに響いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 41