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失業
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結局、浅黄は退職した。
このまま会社にとどまれば、人間不信かうつ病になると思ったからだ。
失業以来、彼の生活は正社員になる前の状態に戻った。
昼過ぎになって起きだし、明るいうちはぼんやりと過ごし、
暗くなってくると用もないのに街をうろついた。
もちろん、それで良しとしていたわけではない。
ただ、最初の会社が倒産後、2年間フリーター生活を送った彼の経歴を見て、
なかなか、採用と言ってくれる会社はないことを、前回の就職活動でよくわかっていた。
人気のない真夜中の地下鉄の駅で、なかなか来ない電車を待っていると、
今の生活のむなしさをしみじみと感じた。
「お兄さん、金、持ってねえか?」
4,5人の若い屈強そうな男たちが浅黄を囲んだ。
「あいにく・・・」
浅黄が言い終わる前に一発目が飛んできた。
浅黄はよろけ、そのまま、男たちにホームから、
監視カメラのないトイレまで引きずられていった。
トイレに入った途端、二発目を受け、浅黄はその場に倒れた。
彼らは転げた浅黄を容赦なく蹴りつけた。
あらゆる方向からくる攻撃に、彼はただ体を丸めて、耐え忍ぶしかなかった。
浅黄が動けなくなると、男たちはようやく暴力をやめ、彼のポケットを探り始めた。
彼らは財布から現金を抜き取ると、間もなく、トイレから出て行った。
浅黄は起き上がって、捨てられた財布の中に切符が残ってるのを見て、
これで厄介なことなく駅から出られると思った。
壁をつたい、体を支えながら、やっとの思いでホームに戻った。
男たちはいなかった。
今はただ、一刻も早くアパートの自分のベッドに体を預けたかった。
残念ながら、彼の願いは叶えられなかった。
男たちは、彼のアパートの鍵を持ち去っていた。
彼は、家に入るためにあれこれ動くのがひどく億劫で、
その晩はドアの前で寝ることにした。
翌朝、人身事故の影響で電車が止まり、いつもより遅く藤原がオフィスに着くと、
綾倉氏は既に執務についていた。
彼の機嫌を損ねそうなことを報告しなければならないときには、
あまり都合のよくないパターンだと思った。
「遅くなってすみません。人身事故があって・・・」
「何か良くない報告があるのか」
「実は・・・。頼んだ男たちが相当ひどくやったそうです。
彼の顔に、傷やあざを作ってしまったようです」
「残るようなものじゃないんだろ。それなら構わない」
綾倉氏は血に汚れた浅黄を想像した。
血をぬぐえば、紫色に腫れた肌。
彼はそんな浅黄の頬に触れたかった。
見ることさえできないのは、ひどく残念だった。
浅黄は顔のあざが消えるまで、アパートに閉じこもっていた。
彼が久しぶりに外の空気を吸ったのは、
フレッチャー社の最後の給料が振り込まれ、それを引き出しに行く時だった。
彼は金を手にすると、ファーストフード店によって食事をし、
コンビニでビールを買って家に戻った。
しかし、今回も彼はアパートに入ることができなかった。
彼のアパートは火事で大騒ぎだった。
幸い、ボヤ程度で済み、けが人も出なかったが、出火元は彼の部屋だった。
彼は部屋を出るときに火は使っておらず、なんでそんなことになったのか見当もつかなかったが、
その後の調べで、タバコの火の不始末だろうということだった。
そんなはずはないと思ったものの、実際に起きてしまったものは仕方ないので、
あきらめて、アパートを退去することになった。
心配したものの、被害に対する賠償などは請求されなかった。
もちろん、裏で綾倉氏の金が動いていたことは言うまでもない。
もっとも、火事を起こしたのは浅黄ではなく、先日、彼からアパートの鍵を奪った男だったので、
それは当然と言えば当然だった。
とにかく、浅黄は、1か月の間に、職と金と住む家をなくすことになった。
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