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あの金曜日の夜
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「金曜日の夜、何があった?」そう聞いてきた瑞樹の表情を見て思った。瑞樹の知りたい答えは、何もなかったと認めてもらいたい。そう言うところだろう。
あの夜「一緒に飲もう。」そう誘う俺を拒否することはなかった。俺は側にいていてもいいのか。その距離は友達としてなのか、それとも、もっと近い距離なのか。そのラインをきちんと見極めたかった。
好きな人がいると言った瑞樹の部屋は、だれかの影を探すにはあまりにも殺風景で。かと言ってどこかにいつも出かけている風でもなかった。
日曜日に出かけて、瑞樹のことをよく知っているらしい同僚に確認をしたが女性の影も見えない。仕事と会社の往復だという。
「あいつ仕事と結婚すんじゃないの。」と、笑っていた。
そう、瑞樹の周りに女性はいない。他に距離の近いのはこの人だけ。でも大野さんの恋愛のベクトルは明らかに女性に向かっている。
もしかしてまだ可能性はあるのかもしれない。俺は、どこまでなら近づいても許されるのだろう。そう思って早々に体調が悪いと退散して瑞樹の部屋に向かった。
部屋の電気は消えていて、誰もいなかった。確か今日はクライアントのピックアップに成田に向かったはず。泊まることはないだろう。そう思ってドアに寄りかかって待っていた。
少し疲れたなと思い始めた時に瑞樹が階段をあがってくるのがわかった。高校の時から変わらない。右足が少し重い音がする。歩くときのくせなのか、トンッ、トン、とリズムがある。
久々に飲むというのに話す話題もなく、瑞樹はただアルコールを流し込むよう飲んでいた。随分と飲むなとおもっていたら、ぴたりと手が止まった。
「あのさぁ、俺ね・・・。」
そこで、テーブルに瑞樹は突っ伏してしまった。ここにこのまま寝かせるわけにはいかない。そう思って。瑞樹の顔を覗き込む、そこにあったのは本当に高校生の時と変わらない寝顔だった。そっと耳元に唇をよせると、くすぐったそうに首をすくめた。
その瞬間、何かがカタンと音を立てて外れた気がした。
「瑞樹、ここで寝ちゃダメだよ。」
抱き起こすように身体を支えながら瑞樹をベッドへと連れて行く。
「んっ。・・・・何?あれっ?そーただ。」
焦点が合ってない。
「瑞樹、重い。ちゃんと歩いて。」
「ぅはあ、なんれ、お前ここにいるの?」
完全に酔っ払ってる。
「そーた、あっつい。服、これ邪魔。」
確かに会社帰りのままだ。これじゃあ眠れない。
「瑞樹、今脱がしてやるから。そこ座って。」
ベッドに腰掛けさせるとシャツのボタンを外してやる。されるがままの瑞樹が可愛い。
ベルトのバックルに手をかける。ゆっくりと引き抜くと少し顔がふにゃっと笑った。
「楽になったぁ、ありがとー。」
瑞樹はわらうと転がるようにベッドに倒れた。今日の瑞樹と俺との距離は・・・。
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