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真田 葵
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「葵さんっておっしゃったかしら?可愛いお嬢さんね。」
その日の夜、食卓で母親に突然話をふられた。
「え?あ、ああ。」
「高校の同級生なんですってね。」
どうせ知っていたのだろうに。わざとらしい母親の声のトーンに曖昧に相槌をうつ。
「で、どうするの?」
自分の為に結婚するのだから、相手にきちんと会ってから考えなさいと言っていたはずだ。だが、実際にお見合いが終わると急かすように結果を求めてくる。今時、会社だって即結果なんて求めてこないのにとおかしくなる。
「どうって言われても。そもそも今日会ったばかりだし。」
「だって、同級生なんでしょう。」
そこが何の関係があるのかさっぱりわからないが、母親の中では高校の時からの知り合いだから何らかの関係性が続いているような気がしているのだろう。
確かに同じ人を好きになった間柄だと思い出す。おかしくなって「くっ。」と笑った。
「あら?何かいいことでもあったの?次回のお約束はもちろんしてきたわよね。先方には、なんとお答えすればいいかしら。」
次回の約束?そうか。そう言うものか。結婚するのか本当に俺。
決して投げやりな気持ちじゃない。だけれど、なんだろうこのお腹の底に残る変な感情は。
「約束はしてない。」
「まあ、連絡先くらい交換したわよね。」
そう言われて、連絡先さえ聞かなかった自分に驚いた。
「いや・・・・。」
「全く、どういうつもり。」
どういうつもりもない。別に聞く必要も、また会う必要も感じなかっただけだ。それに向こうも何も言っていなかった。
「連絡先は、母さんが先方にお伺いしておきます。全く何歳になったら手がかからなくなるのかしら。」
嬉しそうな母親の口調に、世話をすることがまんざらでもないんだと感じる。
「あのさ、悪いけど、少し考えさせて。」
そう答えた瞬間に母親の顔が曇った。そして睨むように俺を見つめて、普段よりゆっくりと話しだした。
「どういう事?あなた結婚に前向きだったじゃない。」
前向きなのは母さんあなたでしょう。そう思ったが言葉せずにその思いを飲み込んだ。
「悪いけど、明日仕事早いから今晩のうちに帰るわ。」
食器を重ねて立ち上がると、母親がいきなり俺の腕を掴んだ。
「あなた、母さんに何か隠し事してるんじゃないでしょうね。」
いきなりの言葉に一瞬、ぎくりとする。
「え、隠すって・・・?」
「母さんに言えないことあるんじゃないの。」
母親ってのは、どうしてこう気がつかなくていいことだけは気がつくんだ。
「何もないよ。」
「そう?人様に顔向けできないようなことだけはしないでちょうだいね。」
そう言うと母親は俺の手をゆっくりと離した。握られていた腕から熱が広がる。母親に言えないこと。そう言えないか、俺は男に失恋したんだよ。
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