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驚きと涙
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切られた電話を見つめる。画面がすっと暗くなった。お前は何をしているんだ終わったものを手繰り寄せようとしているのかと、問われている気がした。
それなのにもう一度同じ番号を呼び出す。その電話に応じる人はいなかった。
携帯をポケットに滑り落とす。ポケットの中にすとんと落ちる重さがあって、これは現実だと告げているようだった。
部屋に戻ると、決まり事をこなすように軽くシャワーを浴びてその日の埃を洗い流す。
空っぽの胃袋がキリキリと痛んだ。食欲はないのに何か食べなきゃいけないんだと不思議に思う。
冷蔵庫を開けると、その白い扉の向こう側に入っていたのは、ペットボトルの水だけだった。取り敢えず水を空っぽの胃袋に流し込む。そして音を立てて冷蔵庫の扉を閉める。
ベッドに身体を投げ出すようにして、これからのことを考えた。
今週末、もう一度実家に帰ろう。さっきの電話で覚悟は決まった。あとは踏み出すのみ。
「奏太・・・。」
どこで間違えたんだろう。俺はどこかで曲がり角を間違えた。ただただ、そんな気がして仕方ない。
目を閉じるとゆっくりと睡魔が近寄って来るのを待った。
明日も仕事だ。いつまでもこんな気持ちを引きずっているわけにはいかない。
眠ろうと意識すればするほど眠れない。余計な考え事がぐるぐると思考の中で渦を作る。このままじゃ朝まで眠れないかもしれない。
ベッドから跳ね起きると、上着を羽織って玄関へと向かう。アルコールでも買ってきて流し込めばなんとか眠れるはず。そう思ったから。
アパートのドアを開けると、足元に黒い塊があった。もぞっと動いた塊に驚いて後ずさりした。
「そ、奏太?お前、何してるの?」
「ん?あ、瑞樹。様子がおかしかったから。でも、来たら電気消えてるし寝ちゃったかなと思って。」
「え?だって・・・。」
「それで、帰ろうと思ったらこれしかないし。」
奏太はひらひらと、電車用のICカードを振ってみせた。
「大して入金してなかったからタクシーじゃ帰れないし、電車終わってるし。ここで眠ろうかなって。」
「お前、バカじゃないのか。なんでインターフォン鳴らさないんだ。ってか携帯は?電話かけて来いよ。」
「ん?携帯ね、飛び出してきたからアパートに忘れてきたみたい。」
「飛び出しってって・・・。どうして。」
「瑞樹が泣きそうな声出すから。死んじゃうんじゃないかって、びっくりした。」
目をこすりながら微笑むその姿を見ていたら、自然と腕が奏太の身体に回っていた。
「奏太・・・お前、何やってんだよ。」
「え?それ、俺のセリフだからね。」
そう言って、顔をほころばせた奏太の姿に胸が締め付けられる。
「身体冷えてる。」
「ん。ちょっと寒いかな。」
奏太の手をとって立ち上がらせると、ドアノブに手をかけた。手を引かれて、軽く俺に向かって微笑んだ、その顔がなぜか愛しくて、なぜか嬉しくて。
「瑞樹?泣いてんの?」
くすっと奏太がわらった。
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