アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
αとαは険悪である
-
αとαは険悪である
重たい瞼を開ける。目に写ったのは真新しい白の天井。この天井を見上げるのはこれで48回目になる。
気怠い身体を起こしてベッドの頭に備え付けられた棚の上に置かれた時計を見た。毎日規則正しく時間と日付を刻むそれは、確かにオレがここに来てから48日が経ったことを示していた。時間は昼過ぎ。
オレの左側は天井から床までの全面ガラス貼りの窓で外のビル郡の一望すると壮観だ。このマンションはこの辺りで一番大きな建物のせいかバカでかい窓があっても外から見られる心配もない。それでも今の体を想像すると恥ずかしくて窓に背を向けるように寝返りを打つとベッドのサイドテーブルに食パンが2斤とペットボトルの水が置かれていた。食べる気はしなかったが喉はからからだったので蓋を捻って開けてぐいっと半分ほど水を飲んだ。ふぅと息を吐いてパンを取り腹に無理矢理捩じ込む。食べたくはない、けれど食べないと元気ないね?とか言われて"薬"を飲まされるので多少無理してでも食べなければならない。
咀嚼していると首のところがじゃらじゃらと音を立てる。オレが48日間ここにいる最大の理由。簡単に言って監禁されている。赤い首輪を嵌められ先には鎖が垂れていてベッドの下にあるフックに繋がれている状態だ。
風呂に入るときとトイレに行くときだけ外され歩くことが許される。風呂はわりかし自由がきく時間でゆっくりと浸かれるのが救いだ。オレは自分の髪を一等大事にしている。髪は毛先を整える程度しか切らず伸ばしてきた。後ろまで伸ばすと女に間違われるので仕方なく短く揃えたが悔しかったからサイドだけは未だに伸ばしている。
毎日丁寧にケアしているおかげで並みの女よりさらさらとしていてキューティクルもある。自慢の黒髪だ。これだけは譲れないのを拉致監禁の犯人たるあいつも理解しているらしく長風呂が許されていた。しかしその間の監視はより厳しいもので浴室の前に陣取ってあいつはスマホを弄っていて時折覗いてくるのだから隙を見て逃げることはできなかった。
あいつは元はオレの上司だった。あいつが社長、オレが社長秘書。関係は決して悪くなかったはずだ。それがいつからだろうか、あいつがオレの耳元で愛を囁くようになったのは。初めは何の冗談かと真に受けず取り合うこともなかった。
からかわれてるなら無視が得策と考えて受け流しては素知らぬ振りをしてきたが、無視を続けられたあいつはあろうことかオレの身体を触るようになった。それも肩を触るとか手を握るとかを越えて脇腹や下肢を撫でられるのだ。これにはさすがに嫌悪感を丸出しに思わず顔を叩いてしまった。しかしそれが起爆剤だったらしく次の日の退社は叶わず気がついたら真新しい白の天井を見上げていた。スーツではなく手触りの良い絹の寝間着を着せられていてこのために一度オレをひんむいたのかと想像したら吐き気がした。
そして部屋に入ってきたあいつはいつもと印象が違っていた。
いつものオーダーメイドのスーツではなくカットソーのシャツにスラックスというラフな服装だったからだ。それ以外はいつも通り。人を拉致していながら、普段と同じように何も知らない人間ならコロッと騙されてしまう笑顔を湛えて。
「これからはずっと一緒だよ、ジェレミアくん」
語尾にハートマークが付きそうな猫なで声であいつは、アローはオレに首輪をつけた。
悪戯に時間が過ぎていく。鎖を破壊できればと思うのだが壊そうにも鎖を叩けるような硬いものがない。フックはしっかり固定され引き抜けそうにはなかった。
唯一硬いものと言われればサイドテーブルの上のランプシェードだが、これはもう7回も破壊しては道具として使ってみた。結果は惨敗。それどころか壊すと不釣り合いに重い「お仕置き」がくるので最近は手をつけない。先日あいつが発情期のΩを連れ込んだときは新手の嫌がらせかと思いカッとなって壊してしまった。結局お仕置きとして媚薬を飲まされ最低の我慢大会をさせられた。
その後Ωは出ていったようだがあいつはまだ怒っているらしく薬で敏感になった身体をあいつは乱雑に抱いたのだった。
この監禁で最もオレが恐れる時間はあいつが帰ってきてお互い風呂から上がった後。
あいつは毎日のようにオレを抱くのだ。オレもあいつもα。番になることもできなければ結婚も許されない、常軌を逸した組み合わせである。本来αが抱かれるなんてことはない。が、オレはそれを毎日甘受しなければならない。αに男にあいつに抱かれるのが嫌だった。激しく抵抗して殴ったり蹴ったり噛んだりもした。けれどあいつとの力の差を見せつけられるだけで今日まで逃げられていない。子どもの頃、オレは身体が弱く運動が苦手で筋肉とは縁遠い生活を送ってきた。それに対してあいつはと言えば、着痩せするタイプで服を脱げば意外と筋肉がついている。
それに度が過ぎると首輪だけでなく手錠をかけられたり足を縛られたりとやりたい放題にオレを縛り上げるため身体中に痕が残ってしまっている。最近は抵抗することに体力を使うよりやつが一秒でも早く飽きるようにあいつの嫌がることを探す方に力を入れている。
逃げてやる。
その意思は消えていない。しかしあまりにもあいつには隙がなく徹底していた。一流企業の経営者は伊達ではないのかオレよりも遥かに頭が回る。こちらは見知らぬ場所に閉じ込められ暴行されて精神は磨り減っている。隙をつくのはそう簡単ではない。それでもあいつの手中に陥落したくなかった。
生来の負けず嫌いな性格だけが今にも折れそうなオレの身体を支えていた。
目を閉じて無為に過ぎていく時間の流れに身を任せた。来る夜に気持ちが沈んでいくのを感じる。日が陰ってきた。室内が段々と暗くなってきたのでランプシェードの紐を引き電気をつける。淡いオレンジの光は慰めるように暖かくオレを包む。柔らかい布団の中に潜り束の間の静寂に微睡んだ。
と、突然の大音量が部屋に響き渡る。飛び上がると足の方ベッドの真正面に設置してあるテレビが音源のようだ。
そしてそれを理解した瞬間全身がカッと熱くなる。
流れているのはオレとあいつが身体を重ねている映像だった。
獣のように攻めるあいつの下で惨めな声を上げているオレがしっかりと映し出されていた。到底自分のものとは思えない甲高い声が鼓膜を揺らす。それだけではない。肌のぶつかる音や粘着質な音と行為に反して落ち着いたあいつの声もはっきりと聴こえる。
あり得ない、こんなものいつ撮影してたんだ。行為の最中は眼前のことにしか気が回らないものだから気がつかなかった。いや、そんなこと今考える必要はない。早くこの悪趣味な映像を止めなくては。布団を剥いでリモコンを探す。手の届く範囲は枕の下、ベッドの下、サイドテーブルの引き出しの中、思い付く限り手探りで探す。
しかし案の定リモコンはどこにもなかった。タイマーで電源が入ったらしいテレビは延々とオレの痴態を晒している。あぁ、イッたんだな。冷めた部分で思う。穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。実際は穴に入れられてるのだけど。
尚も流れ続けるそれに堪えられなくなり布団を頭から被って耳を塞ぐ。それでも手をすり抜けて音が聴こえてきて怒りと羞恥心に震えた。ここ数日はあいつの琴線に触れるようなことをした覚えがない。なら、これは何の為のどういう意図があるのか。さっぱりわからない。あいつが何をしたいのか何を目指しているのか頭がショートしそうだ。
早く止めてくれ、ひたすらに願う。だから全く気がつかなかった。
不意に騒音が止む。ホッと息を吐く間もなく間延びした声が聴こえた。
「ジェレミアくんただいま~」
バッと布団から飛び起きて声の主を睨む。そいつはリモコンを片手に水色のネクタイを外していた。
「ふふっよく撮れてると思わない?」
「何がよく撮れてるだよ…!ふざけやがって!」
色々言ってやりたいのに言葉が怒りで上手く繋がらない。アローはそんなオレの怒気を気にした風もなく呑気に着替えている。ラフな格好になると漸くオレの顔を見た。
「なんでそんなに怒ってるの?もうちょっと顔が映ってる方がよかったのかな?」
斜め上の答えに腸が煮えくる。
「ふん!また、新しい嫌がらせを思いついたってか!?てめえはどこまでも外道だな!!」
語気を荒げるがアローは飄々とした態度を崩さない。苛々する。
「そんなぁ…俺は一人寂しくお留守番してる君が楽しめるようにビデオを設定しておいたんだよ?」
眉尻を下げてアローが言う。これが皮肉などではなく事実そう思っているのだから始末が悪い。
こんなもので楽しめるのはお前だけだと言ってやるとアローは、そう、と意外そうな顔してオレに近付いてくる。殴ってやろうと拳を振り上げるがあえなく捕まり動きを制された。そしてベッドに腰かけるとオレの下半身をまさぐり始めた。悪寒がして空いた左手でまさぐる手を止めようとするが中心を握られて変な声が出てしまう。
「楽しんでないわりにはここは反応してるみたいだね、ジェレミアくん?」
ね?と首を傾げながら不適に笑うアローに冷や汗が垂れる。指摘に否定ができない。なんせ本当に自身は反応してしまっているのだから。
心では嫌がっているはずなのに身体はその熱を覚えていて情けなくも首をもたげていた。見抜かれていることにさらに腹が立って暴れようとするが腕を強く掴まれ痛みに顔を歪める。中心を握っていた手は布越しにそれを揉み始めて身体が跳ねた。やめろと言ってみるが手が休まることはない。気持ちいいくせにとクスクス笑われ一蹴された。
アローの手に慣れ始めている身体はオレの意思に従わない。ズボンの中にするりと手が入ってきて直接扱かれさらに質量を増していく。
いつの間にか押し倒されていたオレはもう快楽に捕らわれ始めていた。ぐちゃぐちゃと粘着質な音が部屋に広がる。
アローはオレのことをオレ以上に知っていてイイトコロばかり攻められる。声を押さえようと解放されていた両手で口を塞ぐ。アローを悦ばせないように声をなるべく出さないようにする。
「ジェレミアくんいいこと教えてあげる。声出さないようにしてるつもりなんだろうけど、吐息が漏れてて逆にえっちな感じになってるよ」
鼻先が触れるくらいの距離で宣告される。よくわかった。こいつは何をしても悦ぶ変態なんだ。手から力が抜けたのをアローはよく見ていて口から外される。そして緩慢だった自身を扱く手が性急な動きに変わった。
その動きについていけなかったオレは我慢していた声を上げてしまう。
「あっ!やぁ、あっひぅ…う!はな、して!」
ビクビクと震えるオレの話をアローは全く聞いていない。敏感な先を親指の腹で擦られ腰が跳ねる。
「だめ…!あっ、あっ、さきは…先はだめ!やだぁ…!」
「やだ?こんなに濡らして…キモチイイって言いなさいって教えたでしょ?」
嫌だと首を振れば振るほどグリグリと先を弄られて中心に熱が集まってくる。
「は…ぁ…イッちゃ、イッちゃう!やめて!あぁ、!んぁ…はひ…はなしてぇ!」
耳の中をぴちゃぴちゃと舐めているアローの肩を掴んで離そうとするがアローは動かない。それでも強く押し返しているとピタリと舐めるのを止めた。
「いいよ、イッてごらん?」
息を吹きかけられ先端を爪で弾かれる。全身が痙攣してアローの手の中に精を吐き出した。
はぁはぁと浅く息をして呼吸を整えるのを待たずアローはオレのズボンを下着ごと脱がして床に投げ捨てる。このままだとまた抱かれてしまう。達したばかりで力の入らない身体で必死に抵抗するが唇を唇で塞がれた。咄嗟に口を閉じようとするがその前に親指が入れられ下顎を無理矢理開かれる。
固定されて口が閉じられずアローの舌の侵入を許してしまう。逃げる舌を上手く絡め取られ口腔を縦横無尽に動き回る舌に翻弄され鼻から息が漏れる。どちらともつかない唾液が頬を伝っていく。そうしているうちにまた中心が熱を持ち始めて悔しくなる。
口を離されると唾液が互いを繋いでプツリと切れた。
「くそ…やろう」
睨みを効かせるがアローは一瞥して顔を離す。オレの腰を撫でてからガッと掴まれぐるりと裏返された。じゃらじゃら鎖が鳴ったが気にしている場合ではなかった。
四つん這いになったオレに間髪いれずアローの指が本来出す場所に入れられる。衝撃と痛みがオレを襲うがアローはすぐにヨクなるからねと言って抜こうとはしなかった。
長い指がナカをぐちぐちと押し広げている。ナニかを探すような手つきがキモチワルイ。枕に顔を埋めてそれに耐える。執拗にジェレミアくんキモチイイ?と尋ねられ、その度に首を振った。自分は抵抗しているつもりだが恐らくアローはこの状況すらも愉しんでいる。今すぐにでもこいつを殴ってやりたい。思い出した怒りを拳に込めるが。
「ひゃああ!?」
ある一点に触れられた瞬間、身体に電流が走った。
「ジェレミアくんはここがイイんだよねぇ」
「あっあぁ!ひぃ、やあっや、そこ…は!はぁ…あぁあ!!だめぇ!触っちゃぁ!」
前立腺と呼ばれるそこをごりごりと刺激されて悲鳴をあげる。そこを弄られると初めからオレの身体は抱かれるためにできているように思えてきて厭世的な気分になる。強い快感に力が抜け腰が落ちそうになるとアローに支えられる。
「やっおねが、はなしてぇ…!ひっく、うぅ、あ~~!」
頭を振って懇願するが返答は指を増やされるだった。増えた指で前立腺を攻め立てられると頭がふわふわしてくる。
「そろそろいいかな」
多分そう言った。と思ったら指を引き抜かれる。抜かれることにも感じてしまい、あっと短い声が出た。
穴に熱いものが宛がわれた。ナニかなんて見なくてもわかる。夜な夜な暴かれた身体はそれをなんなく受け入れていく。指とは比にならない質量のアローのモノがゆっくりナカに入ってきて顔をしかめた。ナカでドクドクと脈打つ感覚に身震いする。
「動くよ?」
オレが応えるより早くアローが腰を動かす。
「あああ!あっ、あ!ひ!…ひゃああああ!!」
一旦引き抜かれるとパンッと音を立てながらナカを抉られ抜き差しされる度にぐちゃぐちゃと精液が混ざって耳まで犯される感覚に陥った。揺すられるのに合わせるようにあっあっと声が漏れる。
「ふふっジェレミアくんのナカ熱くてキモチイイよ…溶けちゃいそう」
後頭部から蕩けるように甘く囁かれる。背筋がゾクゾクして熱の籠った息を吐いた。硬いモノが前立腺を突く。
「はぁ、ああ…」
溜め息が出てしまう。最近は自分が理解できない。嫌で嫌で仕方ないはずなのに奥を突かれるとうっとりするオレがいるのだ。決してアローを受け入れているつもりはない。
けれど後孔がジンジンと痛んで太いそれをぎゅうぎゅう締め付けてしまう。
「ジェレミアくんどうしたの?この頃大人しいね?」
アローにも知られてしまうくらいオレの身体は日々変化している。可笑しいこんな筈じゃない。なんで、どうして。
「キモチ良さそうなジェレミアくんも大好きだよ」
うなじを噛まれる。それはαがΩと番になる際にする行為。発情期のΩは噛まれてもあまり痛みを感じないらしいが、オレは痛みに呻き声をあげる。
「君と番になれたら良かったのに。そうしたら君は俺だけを見てくれる…」
アローが切なそうに呟く。
誰がお前と番になんかなるものか。そう口にしようとするがその前に腰を打ち付けられた。前を放置されているので決定打に欠けお預けを食らっている感覚だ。早くイかせてくれ。もどかしい。キモチは昂っているのにイマイチ足りない。
「ジェレミアくんイキたいの?腰なんて振っちゃって…。だったら何て言えばイイか分かるよね?」
無意識に腰を振っていたらしい。アローに上手いこと乗せられている。そんなことしたらオレの負けだ。こいつの手中に嵌まってしまう。嫌だ。
「っあ、…は、あ…だ、誰が…言うもんか…!んぁ!?」
後ろを向きながら口の端を上げて言うと前を握られる。根元を握ってそのまま激しく突き上げられた。最奥を何回も突かれて息ができない。
「あ!ああ!んぐっうわ!あ、ひぃ!…はっあっ…やめ!はなし…」
激しい律動に頭は付いていかず目の前がチカチカしている。生理的な涙がボロボロ零れ唾液は飲み込めない。イキたいのにイケない。絶頂が近いのに果てしなく遠い。
「イケないのは苦しいでしょ?簡単だよジェレミアくん。イカせてください、それだけだよ」
アローの甘美な言葉が脳ミソをぐずぐず溶かす。
「はぁ…はぁ!イグ…イッちゃ、う!」
浅い呼吸を繰り返す。意識が吹き飛びそうになると突き上げられた。自身を強く握ったまま尿道を攻められる。直接的な快感に達してしまう。しかし握られたままで精を吐き出せず絶頂から解放されない。行き場のない熱が身体の中で暴れまわる。
「あ、ああっ!は…な、はなしてぇ!はあぁ…ぁああ!イキた、イキたい!!イカせてぇ!!!」
「よくできました」
握っていた手が激しく上下に動き、後ろもギリギリまで抜かれたと思ったら一気に最奥を突かれた。
パンパンと肌がぶつかり脳まで揺さぶれる。前と後ろからの刺激に悶絶する。もう、なにも考えられない。目の前の快楽に身を委ね全身で感じる。
「はああ!キモチ、キモチイイ!!もっと…もっと、突いてぇ!」
「随分素直になったね?ふふふ、いいよ。仰せのままに」
よりいっそう激しくなる動きに従順に鳴く。恥も外聞もかなぐり捨て求めるとアローは嬉しそうに腰を振った。アローのモノに腰を擦り付ければ射精感が込み上げてくる。
瞬間うなじを再び噛まれた。痛いはずなのにそれすらキモチよくて。
「あ、あ~~~~~~~~~!!」
痙攣しながら射精する。長くイカせてもらえなかったために射精はなかなか止まらず深く長いそれに溜め息のような声が出た。達したことにより後ろが締まったのかアローが呻く。それと同時にナカに熱いモノが注がれる。中出しを咎めることもできずびゅるびゅると注がれる感覚にも震えが止まらない。
「は~、キモチイイ…ははっジェレミアくんじゃないけど、止まんないや…」
凄くヨかったよ、囁かれてびくりとする。段々と頭が冴えてきて自らの行いを理解する。
やってしまった。誘導されたとは言え求めてしまったのだ。
あいつを受け入れたのだ。拒絶してきたアローとオレとを隔てていた壁は脆く崩れ去った。意識が暗闇に引っ張られていく。現実を受け止められないオレは暗闇に身を任せた。全てが夢であったらと祈りながら。
鉛のごとく重たい瞼を持ち上げる。49回目の天井。全身は今までで一番怠く指一本動かしたくない。寝間着が昨日のものとは違い薄い紫色をしている。なぜだかあいつを彷彿とさせ腹立たしかった。軋む身体で寝返りをうつ。サイドテーブルにおにぎりが二つとペットボトルが置いてある。とても食べる気にはなれず布団を頭まで被った。
あいつが帰ってくるのが恐ろしくてオレはここに来て初めて泣いた。
部屋は暗く、いつの間にか寝ていて夜になってしまったようだ。がさがさとベッドの脇で布の擦れる音がする。布団から顔を覗かせると暗がりでよく見えないがランプシェードの柔らかいオレンジの光に仄かに照されてあいつだとわかった。
身を固くする。昨夜を思い出して青ざめた。
ネクタイを外しジャケットを脱いだアローが腕を伸ばす。下がる前に抱き締められる。次に来る衝撃に備えるがいつまでも押し倒されることはない。それに今日は優しい気がする。
「な、なんだよ…?」
顔を肩口に埋めるだけでアローは何もしようとしない。不気味なので引き剥がそうとするがそれは叶わなかった。
「おい…」
「俺はジェレミアくんが好き。大好きだよ、愛してる…」
顔が近くにあるから聴こえるもののボソボソと呟かれ普段の覇気が感じられないアローは気持ちが悪い。オレが聞き返しても同じ言葉を繰り返すだけだ。
「好き。好きなんだ。どこにも行ってほしくない、俺だけを見て…俺だけのモノでいて…」
抱き締めると言うよりすがり付くような弱々しい姿に言葉に詰まってしまう。何があったと言うのか。
好きだ好きだと嗚咽を漏らす。かける言葉が見つからず抱き返すなんてこともできず、オレはアローの気が済むまでただジッとしていることしかできなかった。
アローから解放されたのは深夜2時過ぎ。身体が自由になったかと思ったらおやすみ、と頬にキスを一つ落とされてアローは部屋を出ていった。ついぞあいつから理由は明かされることはなかったが、オレがどこかに行ってしまうことを恐れているようだった。けれどそんな都合が通るわけない。オレは自宅に帰りたかった。
今朝は記念すべき50回目の天井。相変わらず新しくて白い。
世間は休日。あいつも仕事は休みのはずだが部屋にいないし、サイドテーブルには朝飯が用意されていなかった。おいおい、どういうつもりだあのやろう。てめぇは優雅にお出かけ、オレは飯抜きかよ。
きゅるる、腹が珍しく食物をご所望なさっている。可愛らしく鳴かれたって食い物はねぇ。
仕方ないので寝直すことにする。起きたら帰ってきてるだろ。
静寂に包まれる。あいつは本当に出かけてしまったのか。食べる食べないは別にしてあいつが朝飯を出し忘れたことは一度もなかった。きゅるる。また腹が鳴る。うるせぇ、無いもんはないんだよ。腹が減って眠れない。
はぁ、早く帰ってこねぇかな…。
「ん!?」
オレ今なに考えてた!?ガバッと起き上がる。寝間着は昨日のままだ。汗がダラダラ垂れる。あいつに帰ってきてほしいなんて、間違っても思っていいことじゃない!違う、オレはあいつのこと…。
ドタバタと廊下を走る音がする。こちらに向かってきているようだ。バンッと部屋のドアが開けられる。
「アロー…?」
視界に飛び込んできたのは見慣れない白。
天井より白い髪に白磁器のような白い肌と無色に近い目は真ん丸だ。薄い橙色のパーカー姿は子どもらしい。
「誰だ?」
初めて見る人物に不信感を剥き出しにする。
「少年、あれ」
「はいテンゼロ」
もう一人入ってきた。緑色の髪を項近くで結い赤い目が特徴的な子ども。
少年と呼んだ子どもから何かを受け取ってテンゼロというらしい子どもがオレに近づいてくる。
「な、なんだよ!来るな!」
制止するがテンゼロは止まらず無遠慮に鎖を掴むと子どもとは思えない力で引き寄せられる。
「はな、せ!」
「じっとしてろ」
抵抗するのが鋭い眼光で刺された。小動物のように可愛らしい瞳からは想像できないほどに鋭利な視線だ。
動かないでいると首を触られた、正確には首輪を触っている。カチャカチャ。何をしているのだろうか。
カチャン
「ほい、外れた」
「え、何が…」
テンゼロの小さい手には赤い首輪がある。外れたって、首輪が?
「これで自由だぞ、ジェレミア」
名前を呼ばれてドキリとする。自由になった…オレが…。
「あ…あいつは、どうしたんだよ」
ああ、それなら後ろにと言いテンゼロが振り向くと入り口の辺りでアローは立っていた。顔を伏せていて表情は読めない。
「アローも反省してるし、お前は自由になったんだよ。後はお前の判断に任せる」
「判断?」
「あぁ。監禁は間違いなく犯罪だしこのまま警察に行ってもいいだろう。少年…この子が証言もしてくれるさ」
この子がなと赤い目の子どもを指差す。指差された子どもが自慢気に鼻を鳴らした。オレが監禁されているのを知っているということは、あの時アローに連れてこられたΩか。見たままを兄弟(?)に話して今に至ると。
「…お前はそれでいいのかよ」
「…ジェレミアくんの好きなようにして。俺は何も言えない」
アローは吐き捨てるように言う。諦めている風だ。なんだよ、その態度。一緒にいてとか昨日散々言ってたくせに。
「オレが警察に行ったらあいつ捕まる?」
「うーん、自己申告だからなぁ。一応証人もいるし書類送検くらいはされるかもな」
「そっか」
申告すればあいつの人生はめちゃくちゃになるだろう。拉致監禁に加え強姦の罪にも問えるだろうし。そうしたら何もかもが終わり。あいつはもう大手を振って歩けない。一生後ろ指を指されながら隠れるように生きなければならない。オレにそれだけのことをしたんだ。
そのくらいの罰は負って貰わなければ許せない。
ふらふらと立ち上がりアローの元に立つ。こいつ背たけぇな。頭一つ分大きいけれど今は小さく見える。
「アロー捕まるの」
「それは俺にはわからないな。選ぶのはジェレミアだから」
オレが選ぶ。眼前には意気消沈したアローが立っている。目に光はなくどこか遠くを見つめていた。
「アロー」
「なぁに、ジェレミアくん」
声をかければ軽い口調で返事をするが若干震えているようで、頬がひきつっている。
一昨日までの威勢が嘘のみたいに何かに怯えている。何かとはオレのことだ。拳を振り上げる。両足に力を入れ渾身の一撃を喰らわせた。
バキッという鈍い音ともにアローは壁にぶつかる。
「これは、オレを拉致監禁した分!」
アローの口の端から血が垂れている。アローは何も言わない。もう一度拳を握り直し同じ場所を殴る。
「これは、オレを強姦した分!」
え。なに、アローってばレイプもしてたの。狂ってるとは思ってたけど清々しいまでに狂ってるな。
後ろの方で子どもが驚く。止められたのかそれ以上は語らない。
アローは何も言わない。言えなくて当然だ。でも、あいつはどこか嬉しそうだった。眉尻を下げ優しい目をして笑っている。
これで楽になれるよ。
バキッ
3発目が顔に決まるとアローはズルズルとその場に座り込んだ。
「早く、ジェレミアくん。早く俺を警察にでも何にでも突き出して。君と離れるならいっそ永遠に会いたくない」
「ふざけんな!!」
アローに馬乗りになって胸ぐらを掴み、顔を上げさせる。
今にも泣きそうなアローと視線が重なる。
何で殴られてるんだよ。何で泣きそうなんだよ。何で会いたくないなんて言うんだよ。全部お前の勝手じゃねぇか。お前ばっかりいい思いしやがって。オレの意思を無視してお前のいいように話を進めやがる。ふざけんじゃねぇ。
「バカにすんのもいい加減にしろ。オレは自由になったんだ。もうお前の好きなようにはさせねぇ」
アローは何を言われるのか想像もできないのか口を閉じるのを忘れてオレを見守っている。
「決めた…お前を警察に突き出すのは止めにする」
マジか。と呟かれた野次はオレには聞こえなかった。
「お前が会いたくないって言うんならオレはお前の秘書なんか辞めてやんねぇから。つーか、なんなら?ここに住んでやるよ。そんでもってお前なんか絶対愛してやんねぇ!」
アローは信じられないものを見るように目を丸くしている。金魚みたいに口をパクパクとさせ何かを伝えようとするが発声できていない。
「ジェレミア、それでいいんだな?」
アローの代わりに沈黙していたテンゼロがバトンを受けた。
「あぁ、そうしてやる。ざまぁみろ、お前の言うこと聞いてやってねーぞ」
「一緒に暮らすのは変わらないんだ」
蚊帳の外にいた赤目の子どもが頭の後ろで手を組みながら欠伸を一つ。
「っちげぇよ!好きで住み着くんじゃねぇから!こいつに嫌がらせを…!」
「でも、アローは元々あんたと一緒になりたかったんだし…叶えてない?それ」
「あ!?」
「ふふ…あははは!」
アローが突然笑い出す。自分でも何言ってるのかわからなくなってきた。
「ジェレミアくん、君って人は!」
あっと思ったときにはあいつの顔が近くにあった。唇が重なっているのだと気づく頃にはもう離れていた。
「いいよ、愛してくれなくても。一緒にいてくれれば君の心を手に入れる瞬間が来るかもしれないからね」
ニヤリと歯を見せるアローはすっかり見慣れた顔に戻っていた。自信満々な表情に沸々と怒りが沸き上がってくる。もう一発殴ってやろうと腕を振り上げるとアローに抱き締められた。昨夜とは違いぎゅうっと力強い。いてぇよ、加減しろ!
「ジェレミアくんが言ったんだからね。ずっと一緒にいてよ?逃がさないから」
耳元で囁かれる。ふるりと震えれば嬉しそうに笑っている。
折角自由になったというのにこいつの腕の中に戻ってきてしまった。そしてきっともう二度とこいつは離してくれないだろう。なら、することは決まっている。
「安心しろよ。お前のことを愛すなんてあり得ない」
オレの心は安くないから。
ほくそ笑む。顔は見えなかったが、アローも笑ったようだった。
αとαは愛し合わない
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1