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昔話
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「俺はさ、それを不幸だと思った事はなかったけど、やっぱりどこかで寂しかったんだと思うんだ。母さんや父さんが俺を普通の子どもとして見てくれてなかった事が。俺にも空が生まれて、母さん達の気持ちはわかる事が多くなって、もし、自分の子どもがΩだったらって考えたら、持て余す気持ちも分からないわけじゃないんだ。でも、それでもやっぱりちゃんと愛されたかったって思わずにもいられない。だからかな、あの頃俺を愛してくれた人を俺もどうしようもなく愛してしまったのは…」
「あの時、うちから出て行く時にはもうソラ君がお腹にいたの…?」
だからうちからも出て行ったの?と雅は続ける。
「ううん、知らなかった。というか、多分まだ宿ってはいなかったと思う。それはなんていうか…俺もうっかりしてたところで…」
「じゃあ相手の人は?知ってるの?ソラ君の事。」
俺は小さく首を振る。
「その人とも、あの日から会ってないから。」
雅は驚愕の顔をして「嘘でしょ!?」と言った。何故そんなに驚くのか、そっちの方に驚いた。
「会ってないよ。だって、その為に俺は家を出たんだから。」
渓史さんと会わない為にバイトも辞めて家を出た。
だから俺は雅に心配してもらえる様な身分じゃない。純粋にただ、あの家から出たかったってわけじゃないから…
「じゃあ…カイ君は本当に1人で…ソラ君を…?」
「うん。」
「そんな…」
「不幸だなんて思ってないよ。俺は空がいるだけで幸せなんだ。空は、願ってもない幸福だった。あの人がくれた愛の証なんだ…」
日に日に似ていく気がするのは、俺が空を通して渓史さんを想うからかもしれない。渓史さんがいるから空を愛して、空を愛しているから渓史さんを想い続けた。
「その人に知らせるつもりはないの?カイ君がΩだからって身を引いた事、彼はどう思ってるの?」
「知らせるつもりはない。…あの人が、俺がいなくなった事をどう思ってるかは分からない…付き合おうも、別れようも、さよならも言わなかったから。」
「…じゃあ、その彼にとっては僕と同じ様に…いや、それ以上に突然カイ君が姿を消したって事になるんだね?だとしたら、ずっとずっと、カイ君を探し続けてるんじゃないかな?その人が本当にカイ君を愛していたなら、間違いなくそうでしょう?だったら、知らせてあげてもいいんじゃないの?きっとその人だって…」
「ダメだよ。彼には俺の事、忘れて欲しいんだ。」
「どうして!」
「だから言ってるだろ。Ωと結婚したって周りには受け入れてもらえない事が多いんだ。せっかくαに生まれたのに、どうしてそんな道を歩かなきゃならない?好きだから、愛してるからこそ、俺は渓史さんには幸せに…」
そこまで言ってハッとした。
間違えた。
ダメだ、雅。
気付かないで。
違うんだ。
彼はそうじゃない。
だから、
聞こえなかった。
そう言って。
「…渓史さん…って…」
「雅、違う。違うよ。」
「カイ君…渓史さんって…あの…」
谷原先生…だよね…?
俺は、そう言った雅の顔を見る事ができなかった。
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