アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
興味の矛先
-
隣に好きな人がいて、後ろにはその人の子どもがいて、楽しそうに笑っている。
家庭的な幸せを望んだ事はなかったのに、海斗くんといるとそれもいいって思う。むしろ、そうなりたいとすら…
車を走らせて1時間半。
ようやく目的地に辿り着くと、そこはすでにたくさんの人で賑わっていた。土曜日の動物園が混まないはずもないか。
「凄い人の数ですね。」
「ほんとだね。人酔いとかしない?大丈夫?」
「多分平気です。桜庭さんは大丈夫ですか?」
「僕も平気。さーて、早速行きますか!」
「いーくー!」
海斗くんが空くんを車から降ろすと脱兎の様に入り口に向かって走り出した。「危ないから走らないで!」って言う制止の声に空くんが立ち止まって振り返り「はーやーくー!」とこちらを呼ぶ。
子どものこういう元気なところは好きだ。海斗くんの子どもだからってわけではなくて、純粋に子どもの明るさには和む。
「せんせーもはーやーくー!」
空くんが僕に向かってそういうと、海斗くんは「あ」と小さな声を漏らした。
「どうかした?」
「いや、空が…」
「え?」
少し困った顔でこちらを見る海斗くん。なんだってそんな…可愛い顔を向けてくるかな。
「空が桜庭さんの事を先生って呼ぶのはいいのかなって思って…」
「あぁ、そういえばそうだね。でも今だけ変えて間違って保育園で呼ばれても困るしなぁ。まだ使い分けなんて出来ないだろうし。」
「そうですよね。でもなんか…こんなところで桜庭さんを先生なんて呼ばれたら、なんだか悪い事をしてる様な気がして…」
「…あー、確かに。妙な背徳感はあるね。」
「やっぱりあるんですか、そういうの。」
「うん、無くもない。あんまり気にならないけど。」
「…桜庭さんって下の名前、なんて言うんですか?」
海斗くんからそんな質問をされたのは初めてだろう。悲しくも、彼が僕に興味を示していない事は分かっていた。下の名前すら今の今まで興味がなかったのだ。だから知る機会があったとて、覚えもしない。それでも今日はいつもと違う。
彼の興味の矛先が、少しだけ自分に向いた気がするのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
101 / 201