アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
クラス委員長選挙開幕
-
学校が始まってから結構な日にちがたった。
学校生活にも慣れ始め、余裕が出てきている今日。
今日は比較的楽な1日で幕を閉じるかと思いきや、また面倒な物が残っていた。
「それではクラス委員長を決めたいと思います。立候補者はいますか?」
笠木は期待していないような表情で尋ねる。
彼の思惑通り、ざわめいていた教室が一気に静かになった。
全員、笠木とは目をあわさず無関係を貫いている。
誰もこんな面倒なことやりたくないのだ。
まだまだ知らないクラスメイト達の中心に立ち、引っ張っていくような挑戦者や勇者はなかなかいない。
シュウも顔を伏せた一人で、誰か早くあげないかな、とこの重い空気からの脱却を望む。
数十秒耳に痛い沈黙が流れ、笠木はため息混じりに話を進めた。
「なら選挙戦にします。まだまだ名前を覚えていないだろうと思いますので、クラス全員の名前が記入された紙をお配りします」
小さめの紙切れと、大量の名前が綴られたものが一気に配られ、シュウの手元にも届いた。
まだまだ誰が誰だかわからない男女の名前が書き連ねてある。
知らないのに、どう判断して投票しろと言うのだろうか。
適当に選ぶのも忍びないし、シュウは仲間達の中からしぼることにした。
ハルトは個人的にいいと思うが、もし彼が当選すればあとに待ち構える皮肉と恨みの嵐。
なのでやめおく。
彼はそういうのが嫌いなはずだから。
ハルトが嫌がることはしたくない。
あちらはシュウのいやがることばかりしてしてくるが、シュウはいい子なのでそんなことはしないのだ。
現実問題からすると、したくてもできない状況下なのだが、あえてそれを考えず、自分が優しいので、と問題点をすり替えた。
自己満足にしか思えないが、バカな彼にはそれで十分優越感に浸れる。
サガラは成績的にアウトだろう。
シュウが言えた立場ではないが。
そのうえ、サガラにはサボり癖があり、よく授業を抜け出して町をぶらついている。
それについていくユツキは、非常に残念だが除外させてもらう。
成績面は完璧で、物腰も落ち着いているが、サガラのことしか頭にない。
そんな奴が委員長になっても駄目だろう。
シュウの意見で委員長が決まるはずないのだが、真剣に彼は仲間たちを分析する。
数分迷いの末、やっぱり奴にしか委員長は勤まらないという男の名前を記入した。
そこでタイムアップになり、最後列が投票用紙を回収し、笠木に手渡した。
受け取った笠木はまず一枚めくり、その名前を黒板に書き込んだ。
頼む!とシュウは神に祈るような思いで次々白く書かれていく名前を凝視していた。
シュウは、彼にしかできないと直感し選んだので、どうか当選して欲しい。
こうして選挙は進んでいった。
「委員長は相河良君に決まりました。相河君、よろしいですか?」
「ん?俺はそんな大役に向いてないと思うが、皆が決めてくれたなら依存はないぞ」
快く引き受けてくれた相河に、笠木は「ありがとうございます」とお礼を言い、リョウの名前に赤丸をつけた。
パチパチと厳かにおこる拍手に、リョウは照れながら何度もお辞儀をした。
よっしゃ!
心のなかでガッツポーズを決めたシュウ。
彼はクラス委員長にリョウを推し、それが見事当選できた喜びにうち震えていた。
明るく人を引き付けるリョウなら、きっとこのクラスを良いものに仕立てあげれる。
シュウは満面の笑みで心からの拍手を送った。
「では相河君、前へどうぞ」
笠木は教卓の前からどき、代わりにスペースを作る。
リョウはそのスペースまで移動し、これから自分が引っ張っていかなければならないクラスメイト達の顔を眺めた。
「えー…俺にクラス委員長なんて務まるとは思わないが、出来る限り皆の理想の委員長に近づきたい!頑張るので宜しく!」
はきはきとした熱論に、盛大な拍手がわいた。
彼の熱意が本物だと理解した生徒たちは、こいつになら付いていけそうだと気持ちを預けたかのように。
照れ笑いを浮かべるリョウに、笠木が優しく話しかける。
「副委員長に誰が向いていると思いますか?」
「え?俺が決めていいんっすか?」
驚いたように言うリョウに、笠木は深く頷いた。
「貴方を補佐する係りですから。貴方と愛称のいい人を選んだほうがいいでしょう」
「そうっすか。んー」
思いがけない展開に早くも順応し、リョウはクラスメイト達の顔を再び眺め始める。
パチリとシュウと目があった。
リョウは明るい笑みを浮かべ、シュウに手をさしのべるように指を指した。
「シュウ!一緒にやらないか?」
「え?俺?」
視線が自分に集まるのを感じつつ、リョウがパートナーに選んだのが信じれず目を見開いた。
「ああ!お前となら上手くできそうな気がするんだ」
リョウの言葉に嘘は感じ取れない。
いつもなら即効拒否するところだが、今日のシュウは少し積極的になっていた。
リョウと一緒なら何でもできそうな気がしてくるのは、彼が仲間思いでとても優しいからだろう。
だからこそついていける。
「どうしよっかな…」
迷うそぶりをするが、やる方向に気持ちは揺らいでいる。
「迷うならやったほうがいいぞ!」
もう少しリョウが後押ししてくれれば、シュウは快く首を振っていただろう。
だが、想像もしない男が割り込んできた。
「待て。なんでそいつなんだ」
低い唸り声に、教室内の空気が一気に冷え込む。
不機嫌さマックスのハルトは、ゆらりと腰をあげて壇上に立つリョウを睨み据える。
高校生とは思えない目付きと威圧感。
向かい合ってるリョウは、いつも通りの笑みを浮かべたままハルトに言い返した。
「シュウとならやっていけそうだと思ったまでだ」
「このバカがクラス副委員長?寝言も休み休み言え」
ばかにしきった物言いに、シュウも椅子を蹴飛ばして立ち上がった。
温厚なシュウも、ハルトの言い方が気に入らなかったのだ。いくらほんとうのことを言っているからとしても、ひどすぎる。
「なんだよ!俺に副委員長できないっていうのかよ!」
せっかくやる気になったのに、水をかけられたようで向かっ腹がたった。
鼻からシュウにはできない、と真正面から否定された怒りは言葉に尽くしがたい。
「お前にそんな芸当ができるとでも?副委員長ていうのはな。委員長を支えるためにあるんだぞ」
「知ってる!馬鹿にすんな!」
怒りのあまり机を叩きつけるシュウ。
ハルトはそんなシュウを夜の海のような瞳で見返している。
「はっきり言う。お前にそんな技量があるか?サポートする立場は誰にも支えてもらえない。自分一人でやっていかなきゃいけないんだ。委員長がクラスの光だとしたら、副委員長は影の存在。すぐ失敗するお前に、そんな役は務まらない」
「うっ!」
ハルトの口から出されるマシンガンのごとく激しい正論にシュウの憤怒は打ち砕かれる。
ハルトは正しい。
どこまでも正しい。
これだと自分がただの餓鬼のように見えてきて、随分情けない。
冷静になって考えてみれば物事を捉えるのが遅すぎる自分には向いていない。委員長より向いていないのではないだろうか。
「思い直せ。お前に出来はしない」
「うぐはぁ!」
きっぱり現実を突きつけられ、シュウのHPは一気に削られた。
力尽きたシュウは大人しく座り、自分の無力にうちひしがれた。
そんなシュウに勝ち誇った笑みを浮かべ、ハルトも席につこうとしたとき
「ならハルトがやればいいんじゃね?」
さっさとこの暇な時間を終わらせたいサガラの一言に、ハルトの余裕の笑みが固まった。
「は?」す
「んなまどろっこしい屁理屈捏ねられるんなら、お前もできんだろ?シュウに偉そうなことほざいてんならな」
「そうだよな。萱田ならピッタリじゃね?」
「頭もいいらしいしな」
「もうそれでいいんじゃねー?」
「ちょっと待て!何で俺が…」
予感しない状況に、落ち着き払っていたハルトに狼狽が走る。
なぜこんな展開になっているのだ。
ただ自分は、シュウに副委員長をやらせたくなかっただけなのに。
しかしここで断れば、再びシュウに話が移ってしまう。
そうなれば、押しの弱いシュウは今後こそ承諾して副委員長になってしまいそうだ。
本気で嫌ならいくらでも助けの手を入れれるのだが、シュウはどこかやりたそうな瞳をしている。
そんな綺麗な瞳に、微かながら怒りを感じた。
「…わかった。俺がやる」
「えっえーと、それなら萱田君が副委員長でいいですね?皆さん拍手を」
静まり返った教室に、小さな拍手が広がった。
ハルトは不機嫌極まりない表情で着席した。
その様子を見ていたシュウは、顎に添えていた指をどかし、ポンッと手をうった。
そうか!ハルト、そんなに副委員長がやりたかったのか!そんで俺にやらせたくなかったのか!
大切なものがずれた結論を叩き出し、シュウは満足ぎみに背中を椅子に預けた。
ハルトはシュウを眺めていたが、やがてすべて察したように深い息をついた。
「ほうほう。これはこれは」
慎宮だけがこの状況を完璧に把握し、面白げに何度も頷いたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 106