アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
入学式は新しい始まり
-
桜が視界を覆う中、入学式は粛々と行われていた。
校長の話などは誰も聞くわけがなく、彼一人のオンステージになっているが、自身の素晴らしい式辞にうっとりしているので冷めた空気には気付いていない。
平凡で、何もおもしろくない普通の入学式。
期待と不安に挟まれた新入生にとって、この高校で初めて行われた厳正なる式なので、台無しにするような輩は現れない。
そのまま神聖な空気を保ったまま式が終わるかという時に盛大なくしゃみが響いた。
くしゅん。ではなく、古典的な擬音で表すなら、はっくしょーい!の方だ。
一斉に体育館にいる人間の視線を集めたシュウは、気まずそうに頬を赤らめて床に目を落とす。
くすくすと忍び笑いがもれ、更に恥ずかしくなる。
壇上で熱論していた校長の恨みがましげな視線もプラスされ、穴に埋まって眠りたくなった。
いくら古いとはいえ体育館の床を掘って埋まることなどできはしない。
やっとシュウのくしゃみから皆の意識が離れ、一息ついていると、鼻につく笑い声が微かに漂ってきた。
目付きを鋭くしながらそちらを見てみると、幼馴染みが馬鹿にした笑みを浮かべていた。
わざわざ振り替えって笑わなくても。
シュウはそう思いながら、ハルトをにらみ続ける。やがて、ハルトが口を二回動かして前に向き直った。
よっしゃ、勝った。
勝負でもなんでもないが、勝ったと思ったので心の中でガッツポーズを決めた。
何事も思い込みが大事なのだ。
だがすぐに勝利の余韻は覚め、ハルトは何が言いたかったんだろ?と悩み始める。
彼との意思疏通は大体可能だ。
『眠い』などの短い感情は伝わる上に、なにも言わずともお互い欲しいもの、やりたいことなどは理解できた。
幼馴染み特有のテレパシーでも繋がっているのかもしれない。
シュウはそのテレパシーを受け取り、内容を必死で絞り出した。
二文字で、あいつが言いそうなこと。
『長い』
校長の話が?いや、それでは三回口を動かさなければならない。
『だる』
確かに言いそうだが、違う気がする。わざわざそんなことを伝えることはない。
『パン』
何で今飯のこと言うんだよ。
腕を組んで本格的に悩みだしたシュウ。
そうだ、あいつがあんな笑顔で言ってくるのは大抵悪口じゃないか!
ポンッと手を打つ。
『バカ』『あほ』『ドジ』『チビ』二文字の悪口って結構あるんだなぁっておい。
全て理解したシュウは、怒りに肩を震わせ軽く地面を蹴りつける。
背中越しにシュウの憤怒を感じ取ったハルトは、鼻で笑い、壇上を降りいく校長の頭を眺めていた。
後で仕返ししてやる。
シュウは硬く心に誓った。
何度めかの誓いとなるが、それが成されたことは一度もない。
いつもハルトに言いようにあしらわれている気がする。
ハルトに絶対仕返しするぞ。
今年の目標を胸に秘めたのと同時に、校歌斉唱のアナウンスが響いた。
こうしてシュウ達の二年目の春がはじまる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 106