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もう一つの葛藤
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「萱田君」
ハルトが静まり返った放課後の廊下を歩いていると、声をかけられた。
少しだけしかめっ面で振り返ったのは、あまり声をかけられる必要性のない人種の声音だったからだ。
案の定、手に書類を持った笠木教師が心配そうな面構えで自分を見つめている。
「何でしょうか」
優等生を演じなければならないハルトは敬語を使用して要件を尋ねる。笠木は少々言いづらそうにしながらも、しっかりとした口調で切り出した。
「最近、悩んでることとかあるんじゃないですか?」
ずばり言い当てられ、少しの間黙りこむ。沈黙を肯定と受け取った笠木は困った笑顔を浮かべる。
「悩み事なら相談にのれる範囲でのりますよ?」
「悪いが、あんたには関係ない。これは俺の問題だ」
敬語を取り払い、ハルトは素の自分で笠木を拒絶する。教師の前でこのようなあからさまに反抗的な態度をとれば優等生という肩書はなくなるかもしれない。
だが、どんぴしゃな善意から逃げたかった。
笠木は食い下がることはせず、悲しげに眼を伏せると無理やり微笑んだ。
「そうですか。あまりため込まずに友達とかに相談すれば楽になると思いますよ。それでは引き留めて失礼しました」
その場から去っていた笠木を見送り、ハルトは深く息を吐いた。
ここのところ、こんなことばっかりだ。人との関わりを自らはねのけてしまっている。
この現状をどうにかしなければならない。そう思っていても行動に移せる気力は起こらなかった。
孤独というものがこんなにも胸にぽっかり穴をあけるものだとは思わなかった。物心ついたころから隣にはシュウがいて、いつも振り回されていた。
たまに嫌になるときはあるが、それすらも心地がいい。
こんなにも依存していたのと、離れて初めて自覚した。
自ら突っぱねた理不尽な拒絶に、傷ついたシュウの泣きそうになっている姿が明瞭に脳裏に移しだされる。
後悔しか残らなかった。くだらないことで嫉妬していた自分が疎ましい。
またあいつと、馬鹿なことをしたいだけなのに。
「シュウ」
名前を呼んでみても、返事は返ってこない。
分かり切ったことだったので、とくに落胆はしない。湧きあがったのは絶望だけだ。
そのまま帰ろうとすると、か細い声音がまたハルトを引きとめた。
今度はなんだ、と苛立ちながらも振り返ると。
そこには、期待した幼馴染ではなく見知らぬ女子が気恥ずかしげに立っていた。
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