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あらきたDCものがたり~R18腐二次創作弱虫ペダルDCアラキタ系
坂戸省一~腐二次創作弱虫ペダル新開/東堂/荒北目線
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「よーっす」
元気に部室に入ってくるが、顔も制服もボロボロだ。
「きさま!喧嘩したのか!」
「しねえヨ。そんなめんどくせェ」
言いながらロッカー前で着替え始めるが、手足も背中も傷だらけ痣だらけ。
翌日は片目アイシングしながら来た。
これをどう黙っとれと言うのだ!
俺はあくまで聞き出そうとしたが、新開が俺の肩に手を置いた。
聞くなと?
これが聞かずにいらりょうか!
でも新開の目が優しくも、奥底に鬼をちらつかせていたので止めた。
でも。
明日もこんななら必ず聞く。
聞くぞ!
翌日から、荒北は、かき消すようにいなくなった。
寮にもいない。
教室にも学食にも、もちろん部室にも現れない。
俺はバタバタとうろたえて、探し回る。
みんなにも手伝わせて。
いたか?
いない。
こっちにもいませんでした。
心配が募る。
募って募ってたまらない。
なのに新開はいつも通り、自転車いじって、うさ吉構って、なんでそんなによゆーなんだ。
俺はついに爆発した。
「貴様は靖友心配ではないのか!」
「心配だよ」
「ならなぜ一緒に慌てぬのだ!」
「助けてって言われてない」
「!」
「わかるだろ? やつも男だ。あいつが音をあげてないなら別にいいんだ」
そう言われたって…
心配なものは心配ではないかね…
うさ吉の世話をする新開の背中を、思い切り蹴りつけたい心境にかられたまさにその時。
「新開さん! 東堂さん!」
泉田がボロボロの自転車を引いてきた。
白の…ビアンキ!
長いこと打ち捨てられていたみたいに、ひどくボロボロになっている。
新開の目が瞬時に、鬼のものへと変化した!
「どこにあった!」
「K町の、ゴミ捨て場脇に置き去りでした」
新開は立ち上がった。
うさ吉を、優しい手つきでケージに戻し、振り向いた顔はもう、鬼のものだった。
「ちょっと出てくる」
誰も『どこへ』と尋ねなかった。
腫れ上がった瞼の隙間から、あいつの顔が見える。
ボコボコにされるのは自業自得だからいい。
ただ…
やるなら自分でやれよクソやろう。
おまえはいつも一人ぼっちで、教室の隅で小さくなってた。
でもって俺に寄ってきて、役に立ちたいと言うから、だったらべプシ買ってきてやと…
クソっ、そんな口調じゃ確かに話さねえ、俺はヨ。
あの頃はムカムカきてたから、今以上に睨んで、怒鳴って、いきってたかもしれねえ。
寂しかったんだ。
つらかったんだ。
人にあたっちゃいけねーの、わかってるけど…
バカだったんだ。
だから…
口の端が曲がる。
言い訳だ。
俺はいきってた。
それだけだ。
過去を清算したいって言ったら、新開は俺に聞いた。
謝って回れるか?
殴られるかもしれない。
蹴られるかもしれない。
それでも謝って回れるか?
出来るに決まってるだろがバァカチャン!
確かに俺、口悪いな。
だからって、四日連チャンで殴る蹴るはねぇだろヨ…
「意識戻ったみたいですぜ」
早乙女とかいうやつの声だ。
「もういいよ。充分だよ。帰してやってよ。充分だよ」
何でそこ二回言う?
重要かァ?
「それは出来ませんよ坊っちゃん。こいつが道端平気で歩ってたら、坊っちゃんのコケンにかかわりますからねえ」
もう一人の、頭悪そうなのがヘラへラ笑い、行きがけの駄賃みたいに俺の腹を蹴ったが、俺は反射的に腹を庇ってその手をはねのけたため、おれは両手を引き上げられて、かえってキツイ三発を腹に食らった。
「ほら見てくださいよ。こいつ性根全然治ってませんよ」
「沈めちゃいましょう。決まりだ決まり。こういうハネッ返り好きな客いっぱいいるから、こら大儲けだ」
待て沈めるってサガミ湾とかじゃないのかァ?
コラ、猿轡、するなやめ、何で麻袋みたいなん被せるっ!
やめろ! こら! どこ持ってくんだ!
何も見えない中、車のトランクにぶち込まれ、かなり長い時間走られ、下ろされた、けばけばしい建物にはこうあった。
『おたのしみ処うす化粧』。
て…
「そ。おめーは今日から、この店の看板息子になんの」
「スキモノが入れ替わり立ち替わり、かわいがってくれるぜぇ?」
嘘…だろ。
俺、俺、福チャンしか知ら…ない…
女だってよく知らないのにそんな…そんな…
思わず後ずさったのだろう、やつらは俺を引き戻し、店に押し込もうとしている。
嫌だ、嫌だ、嫌…
「その辺にしてやってくれないすか」
新開の声だ。
振り向くと確かに新開で、かなり怒った顔で立っていた。
「謝りに来た人間を、坂戸組はそーゆーふーに扱うのかい? 残念だなー」
口調は軽いが、新開は全然笑っていない。
「帰してくれるまでの辛抱だろうと思ったんだ。けどあんたらはこいつの自転車を捨てた。これはこいつを帰す気がねえってことだろう? それだけは許せねえよ」
一歩、また一歩、進むたびに新開が変わっていく。
人から鬼へ。
そうなのか。
新開は、サーヴェロなしでも鬼になりうるんだ。
そんなことを考えている間に男たちは泡食って逃げ散り、その場には新開と、縛りあげられてる上、痣だらけの俺だけが残された。
「よ。お疲れ」
もう人に戻ってる。
「新開…」
名を呼ぶだけで顔が痛い。
でも来てくれた。
絶対手は貸さないと言ってたくせしやがってヨオ…
泣きそうになったところへ、『おたのしみ処』の通用口が開いて、貧相な爺さんが顔をのぞかせた。
「なに。この坊や、買い取りでいいの?」
俺は慌てたが、新開は落ち着いたもので、
「すいません。まだ飼い主が手放したくないって言うんで」
「よしてよー。迷うくらいなら問い合わせんなよー。じゃあもう、行って行って」
犬でも追い払うように手を払い、引っ込んで扉もバタンと閉めた。
俺たちは同時にはあっと息をつき…次の瞬間一緒に笑い出していた。
なかなか笑い止めなかった。
新開のうちに連れ帰られた。
シャワー借りて、汚れ落として、中坊の弟チャンに生傷の手当てをしてもらった。
「あんた喰われんの?」
「アアン?」
ねめつけると、ちょっと怯んだみたいだが悪びれない。
「こら悠、もういいから寝ろ」
「ちえっ俺だけ一人寝かあ」
ぶつぶつ言いながら去って行った。
「坂戸で躓かなきゃ、オールクリアだったんだろ?」
「まァね」
「よく我慢したな」
優しい目をしやがる。
俺は柄にもなく少しテレる。
「おまえにしては、だけどな」
ちょっとずっこける。
「てめっ」
「で、坂戸はどうする」
「あした…」
「あした?」
「もいちどだけ…謝る」
「おー」
「でもそれでも許せねえっていうなら…どうするかな」
俺は本気で頭を抱える。
考えるのは苦手だ。
頭いてえ…
「とりあえず、当たって砕けてみるわ」
「それでいい。坂戸が終われば晴れておまえは、一人前の自転車レーサーだ」
「俺、そんな悪いやつだったんかな」
「悪人だ。過去を処理してこなかったんだからな」
「…」
「そういう意味では俺も同じだがな」
「新開…」
仔うさぎの親を不可抗力で死なせた新開と、自分のイラ立ちを人にぶつけてただけの俺では、全く意味が違う気がする。
それに新開は既に『罰』を受けている。
自分の走りに徹しきれないという、大きすぎる罰。
でもいいさ。
俺には一つ借りができた。
いつか返せる時がくる。
その日まで、俺は自分の牙を磨き、爪を磨き、必ずこいつの力になる。
なってみせる…
出し抜けに、新開が言った。
「あしたから、覚悟しろよ」
「練習かよ。任しときなヨ」
「違う。尽八だ」
「げっ」
意味はわかる。
あす、部室に行ったら、あいつがどういう反応するか…
『靖友! 靖友靖友靖友! いったいどこで何をしていたのかね!
ちゃんとメシは食ってたかね?
傷だらけではないか痛々しい…』
想像しただけで気が遠くなる。
けど、あのうざささえ、今の俺には宝物だ。
仲間。
俺に再び与えられた新しい宝。
今度こそはなくさねえ。
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