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慶太の恋②/後編(番外編)
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恋が、終わる。
それは、ただただ空虚な毎日。
「あー、つまんねぇ………………」
ランチタイムが終わった、午後。
俺は、コーラ片手に空へ向かって、ぼやく。
自分で作ったまかないを店の奴等に食わせ、チャチャと片付けをすると、いつものように近くの公園で休憩。
そこの端にある、木陰に隠れた一つのベンチ。
ここから見える景色を眺めるのが、つまらない俺の日課。
そう、見える景色。
お弁当を食べてるOLや、昼寝をしているリーマン、散歩をする親子連れ………………。
所謂、俺とは違う、普通の人々。
その人達を眺めていると思うんだ。
あそこに行けてたら、こんなに悩み続けた人生を送らずに済んだだろうかって。
「はぁ………………最近は、それも穏やかに見れてたのにな…………………」
青木さんのお陰で。
いつも明るい、青木さん。
朝早くから夜遅くまで、決して楽ではない、花屋の仕事。
当たり前の事かもしれないが、その大変さを全く表に出さない青木さんを、俺は尊敬していた。
だから、そんな青木さんに恋をしている間は、苦手だった『普通』が、ちょっぴり好きでいられた。
青木さんは、この部類なんだと考えたら、視界に入る人々が、無性に愛しく思えたから……………。
「……………………て、俺どんだけ好きだったんだよっ」
そんだけ好きだった。
わかっているから、未練タラタラ。
青木さん………………………。
「会いてぇ…………………よ」
あんたの笑顔が見たい。
眩しくて、眩しくて。
手を翳したくなる輝きに、俺は元気を貰ってた。
「け………………………慶太くん?」
は………………………。
「わぁぁっ!良かったぁ、やっぱり慶太くんだ!後ろ姿見てたから、違ったらどうしようかなってっ」
手にしていたコーラが、弾け飛ぶ。
何だ、このタイミング。
背後から聞こえた意外な声に、俺は思わずペットボトルを投げるように落として、慌てて振り返った。
手、翳していいですか?
いきなり、目の前へ飛び込んできた光景に、俺はたまらず居もしない誰かに問いかける。(誰だ、オイ)
だって…………………だって、だってっ!!
「あっ、青木さん……………っ!!!」
視線の先には、会いたくて、会いたくて仕方がなかった青木さんが立っていた。
嘘だろ……………………!?
「何………………で……………」
在り来たりだが…………………夢か?コレ。
青木さんの事ばかり考え過ぎて、ついに幻覚見だしたのか?
有り得ないシチュエーションに、開いた口が塞がらない。
でも、そんな動揺しまくってる俺を他所に、青木さんは、やっぱり青木さんだった。
「慶太くんのシェフスタイル格好いいっ!!想像してた以上だよぉっ!うわー、声かけて正解だった!ホント、モデルさんみたいだァっ♪」
淡いブルーのシャツの上に、花屋の茶色いエプロンをして、相変わらずのキラキラな瞳。
キラキラ……………………。
「いや………………………あの………………」
俺、失恋したんだよな…………………?
この人の手を握りしめ、『全部好きです』なんて叫んだ挙げ句に、走って逃げて……………もう会えないって涙した、恋の終わり。
もう会えない。
俺の涙、何だった…………………。
かれこれ、2週間振り位の青木さんのテンションに、俺は思い切り押されてた。
「ああっ!!ごめんね!急に声なんかかけて、驚かせたよね…………………っ」
青木さんは、呆然とする俺にようやく気付き、顔を真っ赤にして俯いた。
くそ………………失恋しても、キュンってなるんだな。
赤い顔の青木さんが可愛くて、抱き寄せたくなる自分の邪さに、呆れてしまう。
男って、野獣だ。
「いえ、ちょっとビックリしたけど、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所まで…………」
俺は、木漏れ日に照らされる青木さんに見とれながら、懸命にいい男ぶって訊ねてみた。
本当は、理由なんかどうでもいい。
あんな真似をしたのに、今までと変わらず声をかけてくれる青木さんが、とても嬉しかった。
どこまでいい人なんだよ、青木さん。
そんなんだから、俺みたいな男が、釣られてしまうんだ。
「う、うん……………この近くに配達で来たんだけど、さっき公園の脇道通ってたら、慶太くんらしき人が見えてね……………………慶太くんかもしれないって思った時には、車停めちゃってた!ハハハ…………」
「え………………………」
赤い顔のままで、恥ずかしそうに髪を掻く、青木さんの思わぬ理由。
車停めちゃってた。
それ…………………。
俺だから、車停めてくれたって事?
ヤバい…………………心臓、もつかな…………………。
それくらい、猛スピードで胸が高鳴り始める。
だけど、青木さんのいい人振りは、まだその上を行った。
「ほら………………あれから、慶太くん………………店に来ないでしょ?ずっと気になってて………………俺、自分の失恋で頭が一杯で、歳下の慶太くんにぼやいてばかりだったから、慶太くんの言葉に何も返してあげられなかったし……………………俺が、慶太くんを傷付けたんじゃないかって」
傷付けたんじゃないか?
青木さんが、俺を……………………!?
まさか!
「青木さん………………………」
あんた、何言ってんの……………!!
人が良いにも程がある。
申し訳無さ気にそれを話す青木さんに、俺は絶句した。
青木さんは、俺の想像以上に、飛んでる。
危ないよ、この人。
放っておいたら、詐欺でもぼったくりでも、何でも遇っちゃうよ!
「だからね、慶太くんが言ってくれた意味を、スッゴく考えたんだ………………慶太くんは、俺に同情して言ってくれたのかな?それとも、友人としてかな?それともそれとも、慶太くんはLOVEの意味で言ったのかな?……………………LOVEだったら、慶太くんの好きなのは、男性って事?…………………とか」
「は………………………?」
いつの間にか、青木さんの『友人』になっている事にも驚きだが、俺のLOVEまで考えてくれたなんて、最早感服。
大概が、俺が気持ちを伝えただけで、連絡が途切れるのが関の山。
仕方がない、それが普通だから。
誰だって、気持ち悪いと思う。
実際、何度も言われて来た。
『ごめん。男が好きって、気持ち悪りィ』
同じ人間でも、気持ち悪い。
そりゃそうだよな。
親友だと思っていた奴が、自分を意識していた。
ふざけて触れ合った事も、落ち込んだ姿に肩を抱いて慰めた事も、全部意識されていたかと思うと、気持ち悪くなって当然だ。
ただ、時には変わった人種もいるらしい。
「わっ………………違ったらごめんっ!!でもちゃんと慶太くんの事知りたかったから、男性を好きってどう言う感じかなって、調べたんだ!俺っ!」
「し……………………調べたって……………」
少し興奮気味に、俺にそれを言う青木さんのガッツポーズに吹きそうになる。
もう、可愛いから何でもOKだよ。
「花屋が終わってから、夜な夜なパソコン弄って、男同士の恋愛話見てみた!」
「なっ………………マジですか!?何やってんですっ!ただでさえ、毎日疲れてんのに!!」
「だって、慶太くんは大事な友人だから!軽はずみな事言って、悲しませたくない。あ、既に傷付けてたらどうしようもないけど…………………」
「青木さん………………っ」
大事な友人。
そんな台詞、いつ振りに聞いたっけ。
会えただけでも最高なのに、次から次へと繰り出される青木さんの魔法に、俺はいつの間にか目頭が熱くなっていた。
格好悪いから、泣きたくない。
泣きたくないけど、泣きそうだよ…………青木さん。
「でもでもっ、そしたねっ…………どこクリックしたのか、男同士の玩具のサイトに入っちゃってぇっ!」
「はい……………………!?」
いや、今いい所。
しかも、それっ………………大きな声で言う言葉じゃないですっ!
赤い顔を手で覆い、照れる青木さんに、俺は咄嗟に周りを見渡した。
ダメダメ、青木さんまで変な目で見られてしまう。
毎回思うが、この人歳上だよな?
何でこう、突っ込みどころ満載なんだ。
「使い方まで、載ってるんだよ!?もぉーっ、慶太くんがこんなの使ってるんだって思ったら、ハラハラドキドキして、俺、心配で心配で……………っ」
「使ってないですけどっ!?」
あんたの方が心配だよ、俺は!!
「どこ見てんですかっ、貴方は!妙な所クリックしたりして、怪しいトコからアクセスされたらどうするんです!ああ言うサイトは、何処にでも繋がってしまう事あるんですよっ」
さすがの俺も、叱ってしまった。
青木さんに何かあったら、生きていけない。
こんな危なっかしい人、一人に出来ないじゃん!
「ぇえっ!!そうなの!?慶太くん…………っ。どうしよう……………俺、抜け方わかんなくて、いっぱいクリックしたかもぉ!」
俺の脅しとも取れる発言に、真剣に怯える青木さん。
だーっ!!
可愛過ぎて、伸びる腕を止めるのが辛い!
「ハァ…………………今夜、仕事終わったら行きますから………………触らないで下さい、パソコン」
「慶太くん、パソコンも出来るの!?俺なんて、発注するの、いまだに一時間はかかるっ」
それでよく、同性愛者のサイト開けたな。
青木さんが、何故花屋を経営出来ているか、不思議だ。
「じゃあさぁっ!ホームページとかも作れる!?お願いしてもいいっ?慶太くんっ!!」
キラキラが、益々キラキラしてる。
ホームページを作る→出来るまで花屋通い→青木さんと花束ナシに会える。
キラキラと下心で、即了解。
「………………………いいですよ、俺で良ければ」
「わー♪やったぁ~っ!作ってみたかったんだ、ホームページ!慶太くんっ、慶太くんと友達になれて、俺はラッキーだね!」
ラッキー。
「青木さ…………………」
初めて言われた。
俺と友達になれて、ラッキーだと思ってくれるなんて………………………俺は、その100倍ラッキーです。
貴方に会えて、こんな幸せはない。
「慶太くん?どうし……………………」
「………………………っません」
一気に、我慢していたものが溢れ出る。
幼い時からの苦しみが、青木さんのたった一言で、浄化されたように溶けていく。
俺の為に悩み、俺の為に怪しいサイトまで見てくれる。
そこまでしてくれる人がいただろうか?
しかも、ラッキーって……………………。
俺は、青木さんの前で顔を伏せ、羽織っていたパーカーで必死に溢れる涙を拭いた。
必死に拭いたけど、流れるものは止まらなかった。
好きだよ。
好きだよ、青木さん。
止まらない涙と一緒に、青木さんへの『好き』が込み上げる。
ギュ…………………………
「………………………っ!?」
突然、フワッと香る、花の匂い。
ハッと顔を上げようとした瞬間、俺の身体は温かい感覚に包まれた。
「青……………………っ………」
「夜……………………待ってるからね。何時になっても、ずっと待ってるからね…………………必ず、来てね」
涙の止まらない俺を抱きしめ、青木さんはこれでもかと幸せをくれた。
そして、周囲の目も気にしないで抱きしめてくれる青木さんに、俺は大人の男を見た。
「………………ぃ…………………はい………………必ず!」
青木さん、あんたは格好いい。
結局、俺はまた、青木さんに恋をした。
(皆様、前後編ありがとうございました。力の乏しさを痛感致しました(T-T)………………でも、二人の初夜を妄想してしまった私は、アホです。多分、ドタバタだろうなと…………あ、結ばれる前提ですね(汗)本当にありがとうございました!)
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