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蝉
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ミーンミーン……………ミーン………………
日が傾き、空はうっすら暗くなってきているのに、蝉は命を全うさせている。
一週間の命。
もし、俺が蝉だったら……………。
やっぱり、隼斗に会いたい。
「いいか?俺はここで待ってるから、何かあったら俺を呼べ」
俺が、ぶっ倒れてから数日後。
俺は慶太に連れられ、涼の家の近くまで来ていた。
涼と、話をしよう。
体調が回復してきた俺を見て、慶太がそう言った。
また、涼が自分を見失ったら危ないから、慶太は近くで待っててくれるらしい。
「ありがとう、慶太」
あの日から、俺はよく『ありがとう』と口に出来るようになった。
「……………………行ってくる………………」
見上げると、慶太は笑顔で俺の肩を軽く叩いた。
大丈夫。
そう言ってくれてる気がする。
ミーンミーン………………………
嫌で嫌で仕方がなかった、うだる暑さも、今日の俺には気にもならなかった。
不思議だけど、今の自分の気持ちが、暑さに勝ってるみたい。
「……………………涼………………」
何日、会っていなかっただろう。
謝っても、謝りきれない。
昔から、ずっと優しかった、涼。
今でも大好きだけど…………………俺はそれ以上に、自分の兄貴を愛してしまった。
「殴られてもいい…………………蹴られてもいい……………俺は、それだけの事をしたんだから……………」
昔よく通った、懐かしい涼の家へ行く道筋。
いつの間にか、新しい家が建ったりしてるけど、ほとんどが記憶のまま。
「そう言えば、いつも涼が来てくれてたから、ホントに何年ぶりだろ…………………」
どこまで高飛車なんだ、俺。
最低な恋人だったな。
慶太が待ってくれてる場所から、数十メートル。
この茶色いレンガの塀を曲がったら、涼の家。
「……………………悠斗?」
俺の進む道の左手から、久し振りに聞く声。
涼だ………………………。
まさかのタイミングに、俺は心臓が止まりそうになる。
「りょ…………………」
一気に全身を、緊張が駆け巡る。
ゆっくり左を向くと、部活帰りなのか、ジャージ姿の涼が立っていた。
「涼、ごめ……………」
「ごめん………………悠斗」
え………………………。
俺が謝るよりも先に、涼がそれを口にした。
そして………………俺が立ち竦む前で、みるみる目に涙を浮かべ、唇を震わせる涼の様子に、俺まで涙が溢れてた。
「ごめん………………ごめんっ……………悠斗ぉ」
「りょ……………ぉ」
苦しかったんだ。
涼も、ずっと苦しかったんだ。
俺は、涼の側へ駆け寄り、その腕を掴んだ。
「涼…………………ごめんな……………俺が、お前を追い詰めたんだね…………………」
流れるものが、もう汗か涙かも、わからなかった。
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