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赤と白の狭間で④
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「今日はいい天気だな」
彼がふと窓の外を見て言った。
確かに今日は雲ひとつない晴天だ。
それが嫌に彼の生気を奪っていくようで。
「なあ、覚えてるか。俺とお前が初めて会った日」
彼は空を見つめたまま。
「もちろん、覚えてるよ」
僕も空から視線を外さずに答えた。
あの日もこんないい天気だった。
「野球誘ってくれて有難うな」
「なに?改まって」
「いや、ただ言いたくなっただけだよ」
鮮明に思い出せる、僕の大切な記憶。
中学一年の頃、当時彼はサッカーをしていたが、チームメイトからひどいイジメにあっていた。見かねた僕が、自分の所属していた野球チームに彼を引っ張った。
『運動神経いいから、すぐに野球も上手くなるよ。それに絶対サッカーより野球の方が面白いから!』
何を根拠にそんなことを言ったのか。
でも、彼が苦しんでいるのを見過ごせなかった。
思えばあの時から、彼に恋をしていたのかもしれない。
「本当にいい天気だ。散歩でも行くか」
お互い懐かしい思いで胸がいっぱいになる。
彼は白い歯をみせてそう言った。
「いいね。まだ暑いから、もう少し経ってから行こうか」
僕も笑顔でその誘いにのる。
ーー本当は行けないことぐらい、気付いてる。
でも、僕らはこうして演技を続けて、時間が止まったかのようにみせる。
彼が大丈夫じゃないと分かったときから、これは始まった。
だれも食べないりんごは、だんだん色が悪くなっていく。茶色くくすんだソレが、不気味で目を背ける。
「あ、そうだ。お前にもう1つ感謝することあったわ」
赤い赤いりんごの皮は、皿にのったまま。
「なに?」
僕はまだそれを捨てられない。
「紗季と俺が付き合うように、色々してくれただろう。」
気づいていたのか。ああ、でも彼なら気づいていたんだろう。だけどなんで今このタイミングで。
そんな笑顔で言われたら、僕は後悔することもできないじゃないかーー
「そんなこと、今更言うなよ。改めて感謝されるとなんだか気持ち悪い」
「なんだよー!俺が感謝してやってんのにー。」
ははは!と声を出して笑った。
乾いた笑顔になっていないか。
顔の筋肉が痛む。
「まさか結婚するとは思わなかったよ」
「いやー、俺も自分で驚いてる。でも紗季といると毎日楽しいよ。」
「それは良かったね」
親友の結婚を祝う。普通のことだ。
好きな人の結婚を祝う。 普通じゃない。
でも、俺は、恋人になれないならせめて。
親友としていたい。だから、一生懸命祝うよ。
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